ここまでの講座では、FXの基本的な仕組みやレバレッジについて、そしてFXと関係の深い「円高・円安」について解説してきました。
FXには、レバレッジを活かすことで大きな利益が期待できますが、同時に損失のリスクもあります。FXに興味があっても、「大きな損失が出てしまったらどうしよう」と不安を感じている人もいるのではないでしょうか。
投資家の資産を守るための安全装置として、FXには「ロスカット(強制ロスカット)」という仕組みがあります。
今回は、ロスカットの基本や仕組み、注意すべきポイントについて、わかりやすく解説していきます。安心してFXを始めるための知識として、必ず理解しておいてください。
FXにおけるロスカット(強制ロスカット)とは、証拠金維持率が一定の基準値を下回ったときに、保有している建玉(ポジション)を強制的に決済し、損失の拡大を防ぐ機能のことです。
元本を大きく超えるような損失から投資家を守ることを目的としています。
ロスカットは、損失の拡大を防ぎ、投資家の資産を守ってくれる安全装置のような役割を担っています。建玉(ポジション)の含み損が大きくなり、証拠金維持率が一定の基準値を下回ると、保有している建玉(ポジション)は自動的に決済されます。
具体的には、証拠金維持率が設定された基準値を下回ると、保有している建玉(ポジション)がFX会社のシステムによって強制的に決済されます。
計算方法などは後述しますが、証拠金維持率とは、簡単にいうと、投資家の資産状況を示す指標のことです。ロスカットによって、投資家が証拠金を上回る損失を被るリスクをおさえることができます(土日を跨いで為替レートが大きく動いた場合や、短時間に急激に相場が変動した場合など、 ロスカットルールがあったとしても証拠金を上回る損失が発生することがあります)。
ロスカットの基準値はFX会社ごとに異なるため、取引を始める前に確認しておきましょう。証拠金維持率の詳しい計算方法については、後ほど解説します。また、下記の記事もあわせてご覧ください。
ロスカットとあわせて覚えておきたい用語として、損切りとマージンコール(「ワーニング」ともいいます)が挙げられます。ここでは、3つの違いを見ていきましょう。
損切りとは、損失の拡大を防ぐため、保有している建玉(ポジション)を投資家が自分の判断で決済することです。一方で、ロスカットはFX会社のシステムによって強制的に執行されるものです。
マージンコール(ワーニング)は、証拠金が不足しそうなときにFX会社から通知される警告のことです。ロスカットが発動する前段階で、証拠金を追加で入金する必要があることが投資家に通知されます。マージンコールの有無はFX会社によって異なります。
ロスカットレベルとは、ロスカットが発動する基準値のことで、主に証拠金維持率が使用されます。ロスカットレベルはFX会社ごとに異なり、場合によっては自分で設定することも可能です。
たとえば、セントラル短資FXの「FXダイレクトプラス」でロスカットが発動するのは、以下のいずれかの条件を満たした場合となります。
これから口座開設される方のロスカットレベルの初期値は「50%」に設定されていますが、「100%」に設定することも可能です。詳しくは以下のページをご覧ください。
ロスカットの計算方法を見ていきましょう。
ロスカットの判定に使われる証拠金維持率は
で求められます。
ここではロスカットレベルを「50%」として、ロスカットが発生するパターンと、ロスカットが発生しないパターンのそれぞれについて、計算の例をご紹介します。
口座清算価値 | 必要証拠金 | 証拠金維持率 | |
---|---|---|---|
ロスカットが発生するパターン | 100,000円 | 250,000円 | 100,000円÷250,000円×100=40%(<50%) |
ロスカットが発生しないパターン | 200,000円 | 250,000円 | 200,000円÷250,000円×100=80%(≧50%) |
上記の表の場合、証拠金維持率が40%になるパターンでは、ロスカットレベルを下回るため、ロスカットが発生します。一方で、証拠金維持率が80%になるパターンでは、ロスカットレベルを上回るため、ロスカットは発生しません。※
※「FXダイレクトプラス」では、毎営業日の午前6時(米国夏時間適用時は午前5時)から営業日終了までの間に、証拠金維持率が100%を割り込んでいることを検知した場合はロスカットが発動します。詳しくは以下のページをご覧ください。
ここまで、ロスカットの意味や仕組みについて説明してきました。ここからは、実際の取引の注意点について解説します。
ロスカットは損失を最小限に抑えるための仕組みですが、完璧に発動するわけではありません。この点には注意が必要です。
ロスカットは、証拠金維持率を下回った場合にほぼリアルタイムで実行されます。しかし、短期間に急激に相場が変動すると、FX会社が設定した基準の証拠金維持率どおりにロスカットが実行されず、証拠金を上回る損失が発生する可能性もあります。
ロスカットが万能の対策ではないことをふまえ、それを防ぐための方法も知っておかなくてはなりません。
ロスカットを防ぐためには、計画的なリスク管理が欠かせません。ここでは、以下の4つの対策について解説します。
それぞれの対策について、詳しく解説していきます。
レバレッジが高すぎると、少しの価格変動で大きな損失が発生するリスクが高まります。初心者の場合は、低いレバレッジでの取引から少しずつ慣れていきましょう。
たとえば、1米ドル=150円のとき、150,000円の証拠金に対してレバレッジを5倍に調整した場合と、10倍に調整した場合に発生する損失の差を見てみましょう。為替レートが1米ドル=149円まで下がった場合の損失の差は以下の表のとおりです。
証拠金 | レバ レッジ |
取引 数量 |
1米ドル= 150円 での購入金額 |
1米ドル= 149円 での売却金額 |
損失 |
---|---|---|---|---|---|
150,000円 | 5倍 | 5,000通貨 | 750,000円 | 745,000円 | -5,000円 |
150,000円 | 10倍 | 10,000通貨 | 1,500,000円 | 1,490,000円 | -10,000円 |
レバレッジが高いほど、証拠金に対して大きな損失が発生してしまうことがわかります。
リスク管理を徹底するためにも、自分の資金の状況や許容できるリスクの範囲に適したレバレッジを選びましょう。レバレッジに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
一定額まで損失が拡大したら建玉(ポジション)を決済して損失を確定するなど、自分なりの損切りルールをあらかじめ設定しておきましょう。
たとえば、「資金の10%以上の損失が発生したら決済する」、「特定のレートに達した時点で損切りする」といった基準があります。
損切りルールがあれば自分の意思で損失をコントロールできるので、ロスカットされる前に対処ができます。適切にルールを設定することができれば、損失の過剰な拡大を防ぎ、大切な資金を守ることができるでしょう。
証拠金を追加で入金することで、証拠金維持率を高めることができます。証拠金維持率がロスカットレベルを下回りそうな場合でも追加で入金すれば、ロスカットされずに建玉(ポジション)※を保ち続けることが可能です。
ただし、証拠金を追加で入金した後で、含み損がさらに拡大してしまうリスクもあるため、注意が必要です。特に、相場が不安定な状況では自分が許容できるリスクの範囲内で慎重かつ柔軟な対応を心がけましょう。
※建玉(ポジション)とは、売買の注文をした後、まだ決済していない状態の取引のことを指します。 買った後で売りの決済取引していない建玉(ポジション)を「買い建玉(ロングポジション)」、売った後で買いの決済取引をしていない建玉(ポジション)を「売り建玉(ショートポジション)」といいます。未決済の建玉(ポジション)に発生している損益は「含み益」「含み損」といった言葉で表されます。以下の記事もご覧ください。
複数の建玉(ポジション)を保有している場合、建玉(ポジション)の一部を決済することによって必要証拠金が減り、証拠金維持率を高められます。
たとえば、含み損が出ている建玉(ポジション)の一部だけを決済して必要証拠金を減らすことで、証拠金維持率を回復させることが可能です。
もちろん、先ほど説明したように、含み損が大きくなりそうな場合は、建玉(ポジション)を全て決済して損切りすることも重要です。損切りをすれば、含み損が過剰に拡大することを未然に防げるでしょう。
ロスカットは、証拠金維持率が一定の数値を下回った時に、FX会社のシステムによって強制的に決済を行い、預けた証拠金(元本)を超える損失の発生を回避する仕組みです。ロスカットは、投資家を保護するための安全装置のような役割を担っていますが、万能ではないということは覚えておきましょう。
FXを始める際は、FX会社が設定しているロスカットレベルを事前に確認することが大切です。低レバレッジでの取引や損切りルールの設定など、自分の資金の額に合わせた取引を心がけましょう。
次の講座では、FX取引の始め方や基本的な流れについて解説していきます。