ここまでの講座では、FX取引における売値のBID(ビッド)と買値のASK(アスク)など、実際の取引の際に確認すべきポイントについて解説してきました。とはいえ、 FX初心者の中には「なにを基準に取引の判断をすればよいのかわからない」と不安を抱えている人もいるのではないでしょうか。
今回は、FX取引における「テクニカル分析」について、初心者向けに概要をわかりやすく解説します。テクニカル分析の基礎を学んで、相場の予測に役立てましょう。
テクニカル分析とは、過去の為替レートの推移など市場のデータをもとにして、将来の値動きを予測する分析方法です。チャートを活用し、パターンやトレンドを分析することで、取引の判断に役立てます。
為替レートには市場参加者の心理や行動が反映されており、過去のパターンが繰り返される傾向があります。テクニカル分析の基本にあるのはこの考え方です。
感覚に頼ることなく、客観的で根拠のある判断をもとにFX取引をするために、テクニカル分析は有効といえるでしょう。理論的な判断の基礎になるテクニカル分析は、初心者からプロのトレーダーまで、幅広い層に支持されています。
ファンダメンタルズ分析とは、各国の経済状況や金融政策などをもとに相場を予測する分析手法です。たとえば、経済指標や要人の発言などの情報をもとに、各国の通貨の動向を分析します。
テクニカル分析がチャートをもとに過去のデータから値動きを分析するのに対し、ファンダメンタルズ分析は経済や政治情勢などをもとに分析します。
両方を併用するのが理想ですが、まずは通貨ペアを問わずに使えるテクニカル分析から勉強していきましょう。テクニカル分析とファンダメンタルズ分析のどちらを重視して取引するかは、トレードスタイルによって異なります。
ローソク足は、期間内の始値(はじめね)・終値(おわりね)・高値(たかね)・安値(やすね)の4つの価格を1本のろうそくの形で表したものです。ローソク足には陽線(ようせん)と陰線(いんせん)の2種類があり、以下のパターンに分かれています。
1本のローソク足は、一定期間内の始値・終値・高値・安値を示します。始値と終値で囲まれた部分を実体(じったい)または胴体(どうたい)と呼びます。そこから上下に伸びた線はヒゲと呼ばれ、高値方向に伸びたものを上ヒゲ、安値方向に伸びたものは下ヒゲと呼びます。
ローソク足の構成要素 | 概要 |
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始値 |
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終値 |
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高値 |
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安値 |
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ローソク足で形成されたチャートにもとづいて投資判断をすることが、テクニカル分析の基本です。テクニカル分析にチャレンジする際は、 まずはローソク足の見方を理解することから始めましょう。
テクニカル分析に用いられる指標は「トレンド系」と「オシレーター系」の2種類に分けられます。
「トレンド系」は、相場の方向性(トレンド)やその転換を把握するための指標です。現在の相場の流れや中長期的な動向を視覚的に捉えることができます。トレンドの方向に従って買ったり売ったりすることで利益を伸ばす取引をする際に役立ちます。
「オシレーター系」は、ある通貨ペアが買われすぎているか、売られすぎているかを判断するために活用する指標です。買われすぎていれば今後売られる可能性が高い、売られすぎていれば今後買われる可能性が高いという考え方をもとに取引をする際に役立ちます。
多くの指標は難解な理論にもとづいているので、全容を把握するのは簡単ではありません。ここでは、各指標の基本的な考え方や特徴のみを、初心者向けにわかりやすくご紹介します。
テクニカル分析の「トレンド系」の代表的な指標は、以下の4つです。
それぞれの指標について、詳しく解説していきます。
トレンドラインとは、相場の方向性(トレンド)を分析するためにチャート上に引く線のことを指します。大きく「サポートライン」と「レジスタンスライン」の2種類があり、以下のような特徴があります。
ラインの種類 | 特徴 |
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サポートライン |
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レジスタンスライン |
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サポートラインは上昇トレンドを表すラインで、直近の安値と以前の安値を結び、右肩上がりとなります。そのため、今後も上昇トレンドが続くと想定して、 為替レートがサポートライン付近に到達したタイミングで買い注文を出すのが基本的な考え方です。
反対に、レジスタンスラインは下降トレンドを表すラインで、直近の高値と以前の高値を結び、右肩下がりとなります。今後も下降トレンドが続くと想定できることから、 為替レートがレジスタンスライン付近に到達したタイミングでは売り注文を出すのが基本的な考え方です。
いずれの場合も、ラインを明確に抜けた場合はそれまでのトレンドが終了し、為替レートがそれまでの動きから反転するサインである可能性もあるため、注意が必要です。
移動平均線は、一定期間の平均価格を線で結んだもので、相場の方向性を把握するのに役立ちます。平均線を出す対象となる期間に応じて、 「短期線」「中期線」「長期線」に分けられ、それぞれ以下のような期間が使われます。
移動平均線の種類 | 期間の例 |
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短期線 |
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中期線 |
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長期線 |
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複数の移動平均線を組み合わせて、売買のサインを判断していきます。
たとえば、短期線が長期線を下から上に抜けるときは「ゴールデンクロス」と呼ばれ、買いサインといわれています。反対に、 短期線が長期線を上から下に抜けると「デッドクロス」と呼ばれ、売りサインといわれています。
一目均衡表は、相場の流れや方向性を視覚的に把握するのに役立つテクニカル指標です。
多くのテクニカル分析は、為替レートの変化や相場の流れを重視しています。対して、一目均衡表は、「いつ相場が動くのか」 「いつ為替レートが目標に到達するか」などを考慮する、時間軸を重視した指標となっています。
一目均衡表では、ローソク足と5つの補助線(基準線・転換線・遅行線・先行スパン1・先行スパン2)を併用し、補助線に囲まれた「雲」と呼ばれる領域で構成されています。 一見すると、ほかのテクニカル分析よりも多くの要素が含まれており難しそうですが、相場の方向性をひと目で確認できる点が魅力です。
ボリンジャーバンドは、統計学をもとに値動きを予測するテクニカル指標です。現在の為替レートが高すぎるのか安すぎるのかを判断するのに役立ち、 相場のボラティリティを確認できるというメリットがあります。
ボラティリティとは、為替レートの変動率の大きさのことです。ボラティリティが高い(=値動きが大きい)ときほど、予測したとおりに為替レートが動けば、 利益が得られるチャンスは大きくなるでしょう。しかし、予測と反対方向に為替レートが動いたときには、大きな損失が発生する可能性もあります。
ボリンジャーバンドでは、移動平均線を基準に、その上下に標準偏差にもとづく変動幅(バンド)が表示されます。
標準偏差とは、データのバラつき度合いを表す値のことです。バンドの幅が広いほど値動きが大きく、バンドの幅が狭いほど値動きが小さいことを意味しています。
テクニカル分析の「オシレーター系」の代表的な指標は、以下の3つです。
それぞれの指標について、詳しく解説していきます。
ストキャスティクスは、相場の「買われすぎ・売られすぎ」を分析するテクニカル指標です。一定期間の高値と安値をもとに、現在の為替レートが買われすぎか売られすぎかを判断できます。 0~100%の数値で示され、100に近いほど「買われすぎ」、0に近いほど「売られすぎ」ということになります。
ストキャスティクスには「ファーストストキャスティクス」と「スローストキャスティクス」の2種類があります。ファーストストキャスティクスは売買のシグナルが早く出やすい反面「ダマシ」が発生しやすいのがデメリットです。そのため、値動きへの反応が緩やかな スローストキャスティクスが使われることが多いとされています。「ダマシ」とは、売買シグナルとは反対に相場が動いてしまう状況をいいます。
RSIは、過去の一定期間の価格上昇と下落の割合を計算し、相場の「買われすぎ・売られすぎ」を示すテクニカル指標です。 たとえば、RSIが70%以上では買われすぎ、30%以下で売られすぎと判断されます。
RSIは明確なトレンドがなく、高値と安値が一定の範囲内で推移する「ボックス相場(レンジ相場)」で有効とされています。ただし、急にトレンドが発生した局面では、 指標が示すサインと反対の値動きをする「ダマシ」が連続して発生しやすくなるため、ほかの指標と併用するのがおすすめです。
MACDは、移動平均線を発展させたテクニカル指標で、視覚的にもわかりやすく、投資家の中で人気があります。「買われすぎ・売られすぎ」を判断できるのはもちろん、トレンドの方向性も確認できる指標です。
MACDは、短期と中期の移動平均線の差をもとに算出されるMACDラインと、その移動平均であるシグナルラインで構成されています。
トレンドが発生している相場では比較的有効に使いやすい反面、値動きが少ないボックス相場(レンジ相場)では機能しづらいため、ほかの指標と組み合わせて活用するのがおすすめです。
テクニカル分析で買いや売りのサインが出ても、それが必ずしも正しいとは限りません。「このサインが出たら必ず上がる、下がる」という絶対的な法則はなく、指標が示すサインと反対の値動きをする「ダマシ」が頻繁に発生する場合もあります。
また、経済指標の発表はもちろん、予期せぬ政治的イベントや自然災害などの突発的な出来事が相場に影響を与えることがありますが、テクニカル分析のみでは予測が困難です。テクニカル分析が絶対的に正しいわけではないという点に注意し、 ファンダメンタルズ分析も併用しながら取引をしていきましょう。
FX初心者には、移動平均線とトレンドラインを使った分析から始めることをおすすめします。移動平均線は相場のトレンドを視覚的に把握しやすく、直感的に買いサイン・売りサインが判断しやすいためです。 また、自らがチャート上にトレンドラインを引くことで、為替相場の値動きに対する理解が深まります。
その後、FXに慣れてきたら、RSIやMACDなど、ほかの指標を試してみるのもよいでしょう。 さまざまな指標を使ってテクニカル分析を試し、自分にとって使いやすいものを見つけてください。
テクニカル分析は、過去の為替レートなどのデータをもとに、将来の値動きを予測する分析方法で、客観的な判断にもとづいた取引を行うために大切な分析の1つです。ファンダメンタルズ分析との併用が理想ですが、 FX初心者の場合、まずはテクニカル分析から勉強してみましょう。
FX初心者にとっては、テクニカル分析は一見すると複雑で、見方や判断の仕方を理解するのも難しいと思われるかもしれません。まずは視覚的に判断しやすい移動平均線を使った分析から始め、 トレンドラインを引いて為替相場の値動きの理解を深めましょう。取引する際には低レバレッジでFXに慣れていくことをおすすめします。
今回は、FX取引の判断基準のひとつとなるテクニカル分析について解説しました。次回は、実際の取引で使われる注文方法について、種類別に解説していきます。