第2回パターン

■歴史は繰り返す

ファンドマネージャーという仕事を10年以上も務めると、マーケットの大きな山谷を経験するものである。平成という時代を振り返っても、バブルとバブル崩壊を経験した1990年代、個人投資家の隆盛とリーマンショックの2000年代、そして東日本大震災と世界的金融緩和等々の2010年代とDecadeとして見ても山あり谷ありである。そのようなマーケットの経験を通じて、特に大きな暴落を目の当たりにするといつも思うことがある。『歴史は繰り返される』という言葉だ。もちろん、まったく同じ現象が繰り返されるということは無いのだが、似たような状況になると似たような結末がやってくることが相場の世界には多い。おそらく相場の世界では本能というモノが大きく影響するからであろう。つまり、相場というのは欲望が渦巻く世界である。どんなに文明が発展したとしても、高度な世の中になったとしても程度の差こそあれ、欲望というモノは変わらない。そこに、相場における恐怖感や高揚感など喜怒哀楽が加わっていく。そうなることで、似たような状況になると似たような結果になることが多いのだ。

■フラクタル分析

前述したような、歴史は繰り返すという動きはチャートの世界に現れる。つまり、同じようなパターンを形成したチャートはその未来においても同じような結果になることが多いということである。これを利用した分析に『フラクタル分析』というものがある。

フラクタルというのは、例えばロシアの民芸品であるマトリョーシカに似ている。人形を取り出すと中から同じ人形が出てくる。出てきた人形を開けると更に同じ人形が入っている、というのが繰り返されるのだ。また、雪の結晶を思い浮かべていただけるとわかりやすい。雪の結晶というのは一つの結晶ごとに、大小幾つもの同じ形をした結晶から成り立っている。食べ物で例を挙げればロマネスクなど同様にフラクタルを認めることが出来る。

雪の結晶

ロマネスク

さあ、これが相場の世界になるとチャートの形としてフラクタルが現れる。以下のチャートを見てもらいたい。

チャート

上図は2011年のドル/円の日足である。上昇に転じた後に2回の高値を示現。その後は下落と反発を繰り返すのだが、この後は再び値を下げていく。

チャート

これはドル/円の2020年の時間足である。日足同様、上昇から2回の高値を示現するが、その後は下落に転じている。

この2つのチャートは日足と時間足と時間の単位は違っているものの形としては似ている形となっているということに加え、その後の値動きも下落という同じ結果が生まれている。

■パターン

さて、こうしたフラクタルを経験しながら、相場の先人たちはいくつかの『パターン』をチャート分析の中で確立させている。複雑なパターンというのは覚える必要はないが、代表的なパターンは覚えておく必要があるであろう。なぜなら、そのパターンが認識されると投資家たちは同じような行動を取り始めるからだ。

ここでは3つに分類して紹介したいと思う。

  1. 天井形成を示すパターン
  2. 底入れを示すパターン
  3. エネルギーが溜まったもち合いのパターン

である。

  1. 天井形成を示すパターン
    このパターンが出現したのであれば、天井を形成した可能性が高い。すなわち、今後は下落相場に移行するであろうというのが予想されるパターンである。ここでは代表的なパターンとして2パターンを取り上げたい。
    • ダブルトップ
      名前の通り、2回の高値が認められるパターンである。

      ダブルトップ

      左図を見ていただきたい。2回の高値を示現している。なお、この高値の価格は同金額になる必要はない。ほぼ同じ金額であれば、左右どちらが高くても問題はない。問題は赤点線の部分である。高値と高値の間に存在する安値水準である。これを『ネックライン』と呼ぶ。

      このネックラインの水準を維持することが出来るのか否かがポイントになる。つまり、このネックラインを割り込んで初めてダブルトップは完成する。逆に、このネックラインで下げ止まった場合には、ダブルトップは完成することはなく、再度高値水準まで上昇する可能性を残すことになる。
      したがって、ダブルトップを見つけた時には、ネックラインを維持することが出来るのか否かが重要なポイントになってくる。

    • トリプルトップ(三尊天井)
      これは高値を3回形成するパターンである。

      トリプルトップ(三尊天井)

      トリプルトップは3回の高値を形成する。特に真ん中の高値が高いケースを『三尊天井』と呼ぶのだが、三尊天井に拘ることなく、ほぼ同じような水準で高値を形成することがポイントである。そして、ダブルトップ同様、赤点線で示した『ネックライン』を認識することが重要である。

      ダブルトップおよびトリプルトップも形成中に多くの投資家は気づくことになるのだが、ポイントはネックラインを維持することになるのか、割り込んでしまうのかということである。なぜならば、ネックラインを割り込む前に、『下落』を見込んでポジションを取っても割り込まずにネックラインから上昇に転じることもあるからだ。つまり、割り込んだのを確認してから後行動に移しても遅すぎることはない、ということでもある。

      チャート

      上図はトリプルトップを形成した後にネックラインを割り込んだ後に大きく下落していることがわかる。

  2. 底入れのパターン
    このパターンが出現すると底入れ確認から上昇が期待できるというパターンである。こちらも2つの代表的なパターンを紹介したい。
    • ダブルボトム
      ほぼ同じ価格水準で2回の安値を示現することによって形成される。前述したダブルトップとは逆になる。

      ダブルボトム

      ダブルトップ同様、赤点線で示した『ネックライン』を認識することが重要である。この赤点線を越えることでダブルボトムが完成し、強気が広がるからだ。したがって、青丸印の水準では強気派と弱気派の攻防戦が繰り広げられる。なお、ネックラインを越えることが出来ない場合には再度安値を試す動きになる。
    • トリプルボトム(逆三尊)
      トリプルボトムと逆のパターンとなる。つまり、3個の安値が現れることになる。

      トリプルボトム)

      3個の安値の水準はほぼ同水準となるが、中でも、真ん中の安値が最安値となる場合には『逆三尊』ともいう。ダブルボトム同様、安値と安値に挟まれる高値の水準、すなわち、赤点線で示した『ネックライン』を認識することが重要である。
      なお、ネックラインを超えることが出来ない場合には、再び安値を試す動きになることはダブルボトムと同じである。

      チャート

      上図はユーロ円の日足である。3回安値を示現した後にネックラインを超えてきたのがわかる。また、ネックライン付近では強気派と弱気派との攻防戦が繰り広げられることから、もち合いが続くことも多い。

  3. 三角もち合い

    相場に方向性が見いだせない時、しばらく一定の値幅を行ったり来たりする時間帯がある。つまり、『もち合い』という状態である。このもち合いの状態というのは、いずれどちらかの方向に動き始める。これを『もち合い放れ』という。上方に動けば『上放れ』、下方に動けば『下放れ』となる。

    このもち合いにもいくつか種類があり、放れるエネルギーが溜まっていると考えることができる。ここでは、三角もち合いとペナント型のもち合いを紹介する。

    • 三角もち合い
      もち合いの形が三角形に似ていることから『三角もち合い』と呼ぶ。では、どのようにしてその形を認識するのかというと、高値と高値を結ぶラインと安値と安値を結ぶラインを引く。その両方の線で三角形の二辺を形成していることになる。
      三角もち合い

      左図は、安値水準はほぼ横這いだが高値水準は右肩下がりで三角形と形成している。
      右図は、安値水準は右肩上がりだが高値水準はほぼ横這いという三角形である

      いずれのパターンももち合いを形成し、エネルギーが溜まっていると判断される。そして、こうしたもち合いの特徴の一つに、頂点が近付くにつれて『同事線』が現れる。投資家はエネルギーが溜まっていることを理解できるのだが、どちらの方向に放れていくのかの判断が出来ないでいる。故に、迷いの証拠でもあり変化の兆しを表す同事線が出現するのだ(同事線については第1話を参照)。

      チャート

      上図はポンド円の日足である。安値が右肩上がり、高値は横這いの三角もち合いを形成しているのが確認できる。この後、ポンド円は大きく上昇していく。

      チャート

      これは豪ドル円の日足である。やはり三角もち合いを形成した後に下放れているのが確認できる。

    • ペナント型
      このパターンは、昔、観光地で売られていたお土産のペナントに似ていることから『ペナント型』と呼ばれる。つまり、高値は右肩下がり、安値は右肩上がりになっている。

      ペナント

      このパターンは三角形の先端に近づくほどエネルギーが溜まっているというのがビジュアル的にも理解できよう。なお、どちらの方向に放れていくのか。これは残念ながら動き始めてからの判断になる。換言すれば、ヤマを張って放れる前に行動すると大きな損失につながる可能性がある。慌てないことだ。
      チャート

      これはドル/円の週足のチャートである。綺麗なペナント型のもち合いを形成した後に上放れているのがわかる。

      このように、いくつか代表的なパターンを覚えるということは、その後の展開を予想するのに役立つのである。

      ただし、パターンについて一つ重要なことがある。それは、実際のチャート、すなわち現在進行形のチャートの中でこうしたパターンを見つけることが出来るのか否かという問題がある。つまり、自分自身で見つけなければならない、ということである。
      それには数多くのチャートを見ることで、チャートに対する鑑識眼を養っていくほかない。絵画の鑑識眼を養うのに、多くの絵画を観るのと似ている。故に、辛抱強くたくさんのチャートを見ていただきたい。

■最近のチャートのポイント

ここで、パターンで気になるチャートを観ておきたいと思う。

チャート

これは2021年5月20日時点のドル/円の日足である。トリプルトップに似たパターンを形成している。しかも、3回目の高値はミニダブルトップを形成しているというおまけ付きである。青線で示したネックラインに接近しているが、この水準で下げ止まれば再度高値を試す動きになるのだが、青線水準を割り込んでくると下値を試す動きになっていくことが考えられる。
参考にしていただきたい。

▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。