第1回ローソク足

■なぜ、今、テクニカル分析なのか

これからテクニカル分析を紹介するとともに、紹介したテクニカル分析を実践と融合させて観察することで投資家の役に立てればと考えて筆を執っている。

具体的にテクニカル分析を始める前に確認をしておきたいことがある。それは投資の世界で行われている分析のことである。実は投資の世界には大きく分けて2つの分析手法がある。一つは『ファンダメンタルズ分析』、他方は『テクニカル分析』である。
簡単に説明すれば、ファンダメンタルズというのは、国や企業の景気や業績といった経済状態を表す指標のことを指し、経済的基礎条件と言われている。そうした指標の分析を通じて投資の世界に利用するものがファンダメンタルズ分析である。
テクニカル分析というのは、過去の値動きからトレンドないしは買われ過ぎ状態・売られ過ぎ状態を分析し、将来の価格の動きを予測するものである。

どちらの分析を主に分析をした方が良いのか、これはよく投資家からも寄せられる質問でもある。結論を言えば、どちらの分析も投資には不可欠である。ただし、人には得手不得手がある。つまり、ファンダメンタルズ分析が得意な投資家もいれば、テクニカル分析が得意な投資家もいる。故に、自分の得意な方の分析を柱として自分の武器にすることをお勧めする。
なお、どちらか片方の分析手法だけを行い、他方の分析を行わないということは避けるべきである。前述したようにどちらの分析も大切な手法であるが故に、補完し合いながらマーケットを分析するのが投資の王道といえる。ただし、それぞれの分析を行う割合については個人差があってよい。例えば、全体の分析のうちファンダメンタルズ分析6割、テクニカル分析4割という人もいるであろう。また、逆に、ファンダメンタルズ分析3割、テクニカル分析7割という人もいるに違いない。いずれにしてもどちらかの分析だけを全く行わないというのだけは避けた方が良い。

ところで、投資の“現場”からひと言本音をつけ加えておきたい。
投資の世界で負けない投資家を目指すのであれば、テクニカル分析や価格の分析を自分の武器にしていくことをお勧めする。
実は、多くの投資家が費やしている投資の研究時間、分析時間を図に書くとピラミッド型の図になるのではなかろうか(図1)。

投資家が費やす時間

図1

(図1)

この図を見てもわかるように、多くの投資家はファンダメンタルズ分析の勉強および研究に多くの時間を費やす。その最大の理由は『勉強をして実感を得られる』からであろう。しかし、よく考えていただきたい。『日本の景気が良くなるのか、悪くなるのか』『世界景気の回復に時間がかかるのか否か』景気の動向一つを取り上げても、経済学者やエコノミストの意見は分かれる。

専門家ですら意見が分かれる問題について、正解を求めるために多くの時間を費やすことは効率的と言えるのであろうか。ちなみに、AとBという二人の投資家がいたとしよう。Aは世界景気が悪いと考えている。故に、マーケットは下落するのではなかろうかと判断している。Bは世界景気は早急に回復すると分析している。故に、マーケットは上昇するであろうと期待している。ところが、Aがテクニカル分析を行うと『買いシグナル』が点灯している。『なぜ、上昇するのであろうか』と思いつつも、ロング(買い)という決断をする。他方、Bは自分の使っているテクニカル分析を行うと、買われ過ぎているので『売りシグナル』が点灯している。『景気は良いのに、売りシグナルなのか』と考えたりもする。 そして、最後は『安く買って、高く売る』、『高く売って、安く買い戻す』作業が出来るのか否かが重要になってくる。

つまり、ファンダメンタルズ分析で間違っても、正解であっても、最後はテクニカル分析に基づいた価格の分析が正解しないことには利益を出すことが出来ないのである。
換言すれば、ファンダメンタルズ分析は間違っても良いのである。その後に修正することができるし、その後の方が誤った選択をすると運用成績に影響を与えることになるのだ。

図2

すなわち、実際のトレード場面で正解を出すことが求められる重要な分析の割合というのは、多くの投資家が勉強を費やしている時間と真逆で左図のように逆ピラミッドになっていると言っても過言ではあるまい。
この考え方が的を得ているのは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大の中で、大きく上昇をしたマーケットが証明している。

■価格の分析

では、価格の分析というのはどういう分析なのか。これはテクニカル分析の中に内包されている分析と言ってもいいであろう。チャート分析のことである。チャート分析というのは価格の推移を記録したグラフから現在のテクニカルなポイントはもちろん、将来の値動きを予想していくものである。そして、この価格の推移を記録するために日本ではローソク足が使われている。

ローソク足を使ったチャート

これがローソク足を使ったチャートである。ローソク足は江戸時代、日本で考案されたものである。それに対して、アメリカなどでは以下のバーチャートが普段より使われている。

バーチャート

なお、金融系の情報端末が普及するにつれて、日本のローソク足も世界では広く使われるようになってきた。
このローソク足を読む、チャートを読むことによって価格の分析が出来るのである。

■ローソク足の基本

ローソク足は4つの価格から構成されている。始値、終値、高値そして安値の4つである。
例えば、日足(ひあし)、これは一日の値動きを1つのローソク足で示すものである。一日の始まった価格を始値という。これに対して、一日の中で最後に取引された価格を終値という。そして、一日の値動きの中で、一番高い価格で取引された高値および一番安い価格で取引された安値を記録していく。
週足(しゅうあし)であれば、月曜日の始値が週の始値になり、金曜日の終値が週の終値になる。
時間足(じかんあし)であれば、例えば10時から11時といった1時間の値動きを記録する。10時の価格が始値であり、11時直前の最後の取引が終値となる。

陽線 陰線

その描き方は、まず始値の水準に横線を引く。次に終値の水準にも横線を引く。つまり、長方形のボックスが出来上がる。
次に、始値よりも終値の水準が高い、すなわち価格が上昇して取引を終えた場合には白抜きにする。これを『陽線』と呼ぶ。逆に、始値より終値の水準が低い、すなわち価格が下落した場合には黒く塗りつぶし『陰線』と呼ぶ。もちろん、白や黒といった色は識別さえ出来れば色は何色でも構わない。ただ、昔は自分でグラフ用紙にローソク足を描いて勉強したことから、白と黒が基本になっている。
この長方形の上の部分から高値までの水準に線を描く。逆に、安値の水準まで底の部分から線を描くのである。この高値や安値を示す線のことを『ヒゲ』と呼ぶ。高値を示す線を『上ヒゲ』、安値を示す線を『下ヒゲ』と呼ぶ。これで完成である。

■ローソク足の見方について

テクニカル分析の教科書は、ローソク足の解説から始まるものが多い。そして、中にはローソク足が作り出す形について詳しく紹介している本もある。
例えば、はらみ線や抱き線といったパターンがある。

はらみ線 抱き線

はらみ線や抱き線のパターンが出現すると、それまでの流れとは逆になるケースが多いと書かれている。

チャート

では、このチャートの中ではらみ線や抱き線はどの箇所で教科書通りの作用をしているのであろうか。
この問いに対して、どれだけの投資家の意見の一致を見出すことが出来るのであろうか。
換言すれば、はらみ線や抱き線といった組み合わせを実践の場で『これがそうである』と容易に見つけることが出来るのか、ということである。

おそらくは『これは違う』、『これは該当している』と意見が分かれるのではなかろうか。そのように意見が分かれるものを実践で使うのは難しいと考えている。

故に、ローソク足もなるべくシンプルに分析することこそが重要になってくる。

■覚えておくべきローソク足

覚えておくべきローソク足の形はたった2つで良い。それは『同事線』と『ヒゲの長いローソク足』である。

同事線

始値と終値が同じ値段の場合はこのようなローソク足となる。これが『同事線』である。もちろん、24時間取引を基本とし且つ銭単位まで表示をするFXの世界では始値と終値がピタリと一致するケースは稀である。したがって、見た目がほぼ同事線の形になっているのであれば、同事線として処理して構わない。

さて、この同事線は何を意味するのか。それは『力の均衡』を示す。つまり、上昇しようとするエネルギーと下落しようとするエネルギーが綱引きをして引き分けになった状態が同事線である。故に、力が均衡している。ということは、次の瞬間、どちらかの方向に動き出す可能性があることを示している。したがって、『変化の兆し』を表すとも解釈できる。
特に、高値水準、安値水準で出現した時には注意をしたい。

ヒゲの長いローソク足

ヒゲの長いローソク足が出現すると、今までの相場の流れとは逆の動きになることが多いとされている。例えば、上ヒゲの長いローソク足が出現する時は以下のような状況が考えられる。

ある通貨を買いたいと考えている。すると、ジワジワと上がり始めている。しかし、投資家としては、少しでも安く買いたいと願うことから、『もう少し下落したら買おう』と待っている。ところが、その願いとは裏腹に値を上げていく。とうとう我慢しきれずに買いに行く。すると、そのように考えていた投資家は自分だけでなく数多く存在していたことから、大きく上昇する。しかし、最後に引きずり出された投資家たちに追随する投資家はもはやいないのである。つまり、最後の買い手であったのである。故に、上昇した後に急に値を下げてくる。そうなると、上ヒゲの長いローソク足が出現するのである。
ということで、高値水準で上ヒゲの長いローソク足が出現したのであれば、流れが変わる可能性が高いことを示唆しているのだ。
これは安値水準で下ヒゲの長いローソク足が出現した時にも当てはまる。

チャート

このように、ローソク足も同事線とヒゲの長いローソク足に注目して見るだけでも分析には大変役に立つと言えるであろう。

そして、この同事線などが直近頻繁に現れていた通貨がある。それがドル円の日足である。
下落が続く中、同事線および下ヒゲの長いローソク足が出現している。

チャート

つまり、下落トレンドになってはいるものの、この時点より売りポジションを取るのはリスクの高いことであると判断できるのだ。

次回は、ローソク足が作り出す『パターン』を紹介したいと思う。

▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。