第14回ECB誕生秘史(1)

本稿は、弊社社長松田が2020年7月17日に咲耶会(注)東京支部で行った「ユーロ語で日銀文学を綴ったら···」と題する講演(於学士会館)の抜粋を、主催者の承諾を得て掲載するものです。
(注)大阪外国語大学・大阪大学外国語学部同窓会

ECB誕生秘史

1.新しい通貨・中央銀行が生まれるとは?

 今から20年ほど前、「11の国々が『せーの』で新しい通貨を創り、長年親しんだそれぞれの通貨を捨てる。新しい中央銀行を作って11か国で共通の金利の上げ下げは、この中央銀行が担う。各国の中央銀行は、今後は自国の金利を決められない」という壮大なプロジェクトの現場に、そのお膝元フランクフルトで立ち会うことができました。
 様々な民族、政体の国々が、長い年月をかけて、大きな混乱もなくこうした大事業を成し遂げるに至った英知、意思、努力の成果は、長年通貨政策に携わってきた私にとっても大きな驚きでした。当時、現地の人達に、若干のリップサービスを込めて、「日本では皆さんの勇気ある実験に注目していますよ」と言うと、「あのね、もはや『実験』じゃなくて『現実』の段階なんだよ」と自信と高揚感に溢れた言葉が返ってきました。
 ヨーロッパではここ数年、ギリシャ、イタリア、スペインなどの経済危機、中東からの難民、英国のEU離脱、コロナ禍への財政面での対応などを巡って「ギクシャク」感が強いですが、私は彼らの経験に裏付けられた底力、政治力、そして何よりこれまでの実績を踏まえれば、ユーロもEUも、決して崩壊に向かうことはないと見ています。パリ市の市章の標語にある「たゆたえども沈まず」(ラテン語で“Fluctuat nec mergitur”)という言葉に象徴される柔軟さと強靭さ(さらに言えば、したたかさ)が、これからもユーロ、EUを巡って発揮されるだろうと予想しています。
 日本からはよく見えませんが、二度の世界大戦を経て、独仏のリーダーたちの「悲惨な戦いをこれ以上繰り返してはならない」との意思が明確ですし、EUの頭脳に当たる欧州委員会が抱える3万人近くに及ぶエリート官僚集団がこれまで築き上げてきた成果をそう簡単に崩壊させるとは考えにくいですね。

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