第16回ギャンチャート

30年以上前の話になる。マーケットの世界に『佐々木会』という勉強会があった。日興証券の故・佐々木英信氏を中心とし、証券会社、運用会社、生命保険そして銀行等のファンドマネージャーやアナリストたちが集まり、月1回の勉強を続けていた。佐々木氏は一目均衡表の研究者として有名な方で、一目山人からも認められた第一人者であった。筆者も佐々木会で学ぶとともに、同氏からも個別に指導をいただいた。マーケットで名が知れた錚々たるメンバーが集う勉強会の最後はいつも佐々木氏が一目均衡表を使った解説をしていたが、筆者はその解説の前にペンタゴンチャートによるマーケットの解説をさせてもらっていた。
佐々木会ではゲストをお呼びして話をしてもらうこともあり、ある時、某大手証券会社で株式の分析をしているアナリストの話を聞く機会があった。彼は大学時代、物理学を専攻していたという変わり種である。当時、理科系の人間がマーケットの世界に足を踏み入れるというのはまだ珍しかった。彼の研究テーマは、株価の動きをエネルギーと時間の観点から分析し予想するというもので、この考え方に筆者は大きな影響を受け、その後の分析において値動きに時間という二つの要素を強く意識するきっかけとなった。
今回紹介する『ギャンチャート』は価格と時間を意識したテクニカル分析の一つである。

■ギャンチャートとは

ギャンチャートは、W・D・ギャン氏によって開発されたテクニカル分析である。1990年代前半にマーケットで注目され、運用の世界で使われ始めた。かく言う筆者も一時期使っていた。当時使っていたギャンチャートは『ギャンライン』と呼ばれるギャンチャートの基本となるトレンドラインである。

通常、トレンドラインというのは、たとえば、安値と安値を結ぶラインで、かつ右肩上がりの形状になれば『下値支持線であるのと同時に上昇トレンドライン』、高値と高値を結ぶラインで、かつ右肩下がりの形状であれば『上値抵抗線であるのと同時に下降トレンドライン』となる。
ここでのポイントは、下値と下値、上値と上値を結ぶということである。そのラインの角度は問題にならない。緩やかなラインもあれば、急角度のラインもある。

ところが、ギャンラインはその角度自体が決められている。いわゆる「ギャンアングル」と呼ばれているもので、その角度は以下のとおり、9種類ある。

1×8 80.25度 1×4 75度 1×3 71.25度
1×2 63.75度 1×1 45度 2×1 26.25度
1×2 63.75度 1×1 45度 2×1 26.25度

このなかでも、1×1の45度線で『ギャンライン』と呼ばれているものが重要になる。なお、この45度というのは価格と時間が1対1で対応しているという意味での45度線であり、分度器で測る45度とは違う。

基本的に、この45度線よりも上方で価格が推移しているときは『強気相場』と考えられ、この45度線を割り込むと『弱気相場』に転換したと考える。

ギャンライン(1×1)

上図を見ていただきたい。これは底値からの上昇に対してギャンライン(1×1)を書いている(赤線表示)。

1×1のギャンライン以外のライン、1×2と2×1のラインも描いているが、このギャンライン以外のラインのことを『ギャンファン』と呼ぶ。

先ほど紹介したアングルで複数のラインを描き、ラインを超えればすぐ真上のラインが上値抵抗線となり、ラインを割り込むとすぐ真下のラインが下値支持線になる。

30年ほど前に筆者が使っていたのは、ギャンライン1本であったが、長期のトレンドを測るには便利であったことを覚えている。

なお、1×1のギャンラインの応用で、右肩上がりおよび右肩下がりのギャンラインで格子を作って分析する『ギャングリッド』もある。ここでは紹介に留めておく。

ギャングリッド
▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。