第14回フィボナッチ

寒い冬に別れを告げ、南風と共に春がやってくる。そして、灼熱の太陽とともに夏が到来し、虫の音とともに秋が忍び寄る。時の流れはいつもと変わらず季節を連れてくる。幾千年もの時間、同じリズムを繰り返す。人類の叡智をもってしてもこの時間の流れを変えることはできない。人類も自然の中で生かされているに過ぎないのだ。
そうした古より変わらぬ自然の摂理の中に脈々と流れているモノに『数』も含まれる。
かのピタゴラスは『万物は数からなる』と言い、ピタゴラス学派は『五芒星』の形をシンボルマークとしていた。
今回はその五芒星に関係する数を取り上げたいと思う。それは「フィボナッチ」すなわち、フィボナッチ数列に表される『黄金比』である。
この数字は古より自然界、建築さらには芸術の世界に大きな影響力を持っていた。

まずはフィボナッチ数列から見ていくことにしよう。

■フィボナッチ数列

フィボナッチ数列

これはイタリアの数学者フィボナッチが見つけた数列で、初項と第2項を1とし、第3項以後、次々に前2項の和をとって得られる数列のことである。第3項は、第2項と初項の和(1+1)で2と表示し、第4項は、第3項と第2項の和(2+1)で3と表示する。つまり、左側に表示された前2項の和で数字を表示していくのだ。5、8、13、21と続いていく。

次に、左側の数字を右側の数字で割る。これを繰り返していくと、その答えは0.618に収斂する。

逆に、右側の数字を左側の数で割る。同様にこれを繰り返すと、その答えは1.618に収斂する。
これら比率を『黄金比(黄金分割比)』ともいう。

次に、任意の2桁の数字を2つ頭に浮かべていただきたい。ここでは17と29としてみよう。
これを先ほどの数列と同じ作業をしてみる。
17、29、46、75、121、196、317、513、830、1,343、・・・
左側の数字を右側の数字で割ってみよう。実は、これも0.618に収斂する。

この黄金比は、『美の法則』と呼ばれ、人間が美しいと自然に感じる比率とされている。
例えば、パルテノン神殿の柱、ピラミッドの建築物からミロのヴィーナスそしてモナリザなどの美術品でもその黄金比があてはまるという。

パルテノン神殿の柱

日本には室町時代に黄金比が伝えられた。それまでの日本の美術では1:√2が基本となっていた。それは法隆寺式などの寺院の配置図や鎌倉時代の絵画にも見られる。
しかし、黄金比が伝えられた室町時代以降は、いたるところでそれが意識されてきた。例えば、修学院離宮の庭の広さ、能面の縦横比、葛飾北斎の富嶽三十六景に現れる波もそうである。特に、葛飾北斎は黄金比を意識して描いていたとされる。

それは、自然界でも認められる。

その黄金比があてはまるという。

アンモナイトと黄金比の関係

アンモナイトと黄金比の関係は有名である。

そして、下図を見ていただきたい。これはヒマワリである。ヒマワリの種は螺旋状に並んでおり、赤矢印を付けた螺旋を順に数えると34。青い矢印で示した螺旋を順に数えると55となる。

ヒマワリの種は螺旋状

ここで、フィボナッチ数列を思い出していただきたい。その数列の中に、34と55という数字が入っている。

自然界には、この黄金比が脈々と流れているのだ。

■フィボナッチ(黄金比)とマーケット

このような黄金比がマーケットでどのように使われているのであろうか。
結論から言えば、価格と時間の分析で次のように使われている。

  1. 価格での使われ方
    チャート上の直近の高値と安値の値幅を『1』とした場合、高値ないし安値から0.618の水準が、値動きの押し目や戻り値または目標となるポイントの価格となる、という考え方がある。
  2. 時間での使われ方
    高値や安値が示現した時間帯から次のポイントになる日付までの日数を『1』とすると、その1.618倍にあたる日柄が次のポイントになる日付、すなわち要注目日になる、という考え方がある。

これらの考え方は、古くからマーケットで使われている。

これは価格分析の例である。

フィボナッチ(黄金比)とマーケット

黄色い矢印で示した高値と安値の値幅を『1』とすると、下から0.618の水準が赤矢印で示した水準である。そして上から0.618の水準が青矢印で示した水準である。
チャートの左側を見ても、それぞれが節目の水準を示していると言っても良いのではなかろうか。

これは時間分析の例である。

フィボナッチ(黄金比)とマーケット2

起点とするポイントから、それぞれ0.618、1、1.618倍にした時間帯で、高値が示現したり、上昇がスタートしたりしている。

フィボナッチ、黄金比というのは「何故、0.618なのか、1.618なのか」という明確な理由は存在しない。古より使われている数字であり、かつマーケットにおいても使われている数字なのだ。

ちなみに、およそ100年前より使われている『エリオット波動』も基本の波動の数は黄金比になっている。

次回はその黄金比の集大成である『ペンタゴンチャート』を紹介したい。

▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。