第12回一目均衡表

「メイドインジャパン」という言葉の響きは日本の高度成長時代を経験した者にとって格別なものがあるに違いない。日本で製造されたモノは品質が高く、そして長持ちする。1979年に出版された「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というベストセラー本に象徴されるとおり、「メイドインジャパン」が世界を席巻していた。また、「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3」という映画の中で、主人公が「最高のモノはみんな日本製だよ」と言っているシーンがある。世界が日本製のすばらしさを認めていた証拠である。
しかし、投資の世界で使われているテクニカル分析の多くは外国製である。RSI、ストキャスティクス、MACDなどは海外から輸入されたもので、これらは日本の投資家の人気も高い。
もちろん、メイドインジャパンもある。その一つが『ローソク足』で、その始まりは、江戸時代、堂島の米相場と言われている。海外でテクニカル分析の本を見るとローソク足で表示されているモノは少なく、そのほとんどはバーチャートで表示されているが、日本のマーケットでは、値動きを記録するモノとしての主流はローソク足である。
そして、もう一つメイドインジャパンで有名なテクニカル分析がある。
それが今回紹介する『一目均衡表』である。

■一目均衡表との出会い

一目均衡表は一目山人(本名、細田悟一)によって開発された分析手法である。その内容については後述するが、一目山人には弟子と呼べる人たちが何人かいて、土曜日の午後(当時午前中はマーケットが開いていた。つまり、土曜日は半ドン)、一目山人の家に集まり、相場の話をしながら一目均衡表の勉強をしたという。
実は、筆者の上司がその弟子の一人で、当時のエピソードを教えていただいたり、一目均衡表に関する多くの資料をいただいたりもした。
また、証券界には一目山人も認める一目均衡表の研究者がいた。第一人者とも言えるその人は、故・佐々木英信氏である。同氏の言葉によると、一目山人から、「君は大変よく研究をしている」と声をかけてもらっていたそうだ。
1990年代、佐々木氏を中心とする「佐々木会」という私的な勉強会があり、証券、銀行、生保などの運用従事者を中心に月に一度その会に集まり、勉強していた。筆者もそのメンバーの一人で、佐々木氏から一目均衡表を学ぶとともに意見を交わしたりしていた。
一目均衡表による分析手法は、現在、一目山人の孫にあたる細田哲生氏が受け継いでいる。筆者もかつては同氏と一緒に一目均衡表のセミナーで講演していた。一目均衡表とは浅からぬ縁を持っている。

■一目均衡表とは

一目均衡表は5本の線から成り立っている。以下の図を見ていただきたい。

一目均衡表

まず、5本の線がどのように算出されているかを説明しよう。

  1. 転換線   :過去9日間の高値と安値の仲値。
  2. 基準線   :過去26日間の高値と安値の仲値。
  3. 先行スパン1:転換線と基準線の中間の値を本日より26日先に記入。
  4. 先行スパン2:過去52日間の高値と安値の中間の値を本日より26日先に記入。
  5. 遅行スパン :本日の終値を26日前に遡って記入。

これらのパラメーターは、一目山人が古今東西、数字についていろいろ調べて採用したものである。

相場の方向は基準線が示す、と言われている。基準線が右肩上がりに推移しているのであれば相場は上昇トレンド、逆に右肩下がりに推移しているのであれば相場は下落トレンドとみることができる。
そして、転換線が基準線を下から上に越えて来ると『好転』と言い、相場が良くなったと判断する。逆に転換線が基準線を上から下へと割り込んでしまった場合には『逆転』と言い、相場が悪くなったと判断する。しかし、実践的な立場から言うと、好転や逆転に基づいて取引する投資家は多くないと言って良いだろう。

次に先行スパン1と先行スパン2である。先行スパン1と2の間に形成された部分を『雲』または『帯』と呼び、赤と青で色を付けている。現在値が雲の上方に位置している場合は、雲の上限の部分が下値支持線になり、雲の下方に位置している場合には雲の下限が上値抵抗線になると言われる。
さらに、雲の中に現在値が入ると、雲の上限が上値抵抗線、雲の下限が下値支持線となると言われる。下記の図の点線で囲った部分が典型例である。

一目均衡表2

ここで大切なのは、転換線と基準線ではどちらが直近の動きに敏感に反応するのか、ということである。それは転換線の方である。なぜならば、転換線の計算期間は9日間と短いことから直近の動きの影響を受けやすくなっているからだ。
先行スパンでは、直近の値動きの影響を受ける先行スパン1がそれである。では、上昇相場が続いた時には先行スパン1と2のどちらが上になるのであろうか。もちろん、直近の動きに反応しやすいのが先行スパン1であることから、先行スパン1が先行スパン2よりも上方に位置することになる。逆に、下落相場が続く時には先行スパン1が下方に位置することになるので、先行スパン2が上方に位置することになる。つまり、雲にも2種類あり、先行スパン1が上に位置する雲(赤色)と先行スパン2が上に位置する雲(青色)である。図に表示してある雲の色はただ色を付けているのではなく、先行スパン1と先行スパン2のどちらが上に位置する雲なのかを判別しやすくするために付けている。
以下の図には下落トレンドと上昇トレンドの2局面が存在しているが、雲の違いもはっきりわかる。

一目均衡表3

■時間を分析する

一目均衡表4

上図の矢印で示した箇所に注目していただきたい。矢印で示した時間帯より相場の流れが変わっているのがわかる。矢印で示した部分は、先行スパン1と先行スパン2がクロスした箇所、通称『雲のねじれ』の位置である。
この雲のねじれの位置で流れが変わることが実は多い。これは短期間で計算された先行スパン1と長期間で計算された先行スパン2の価格が一致するということは、短期的にも長期的に意味がある価格であるが、だからこそ相場の転換点として注意を要すると一目均衡表では考える。相場の流れが変わることが多いことから、『変化日』と呼ばれていたりする。

もちろん、先行スパンであることから、現在よりも26日先に雲のねじれの位置は出現する。ということは、変化日(ここでは、相場に変化があるかもしれない要注意日、という意味が強い)がいつ到来するのかが事前にわかる。このように、将来のいつ頃に相場に変化が起こる可能性があるということを示唆する、すなわち時間の分析ができるテクニカル分析は珍しく、一目均衡表の大きな特徴と言えるであろう。

■遅行スパン

最後に遅行スパンである。遅行スパンは現在より26日前に遡って現在価格(終値)を記入する。すなわち、現在価格を26日前の価格と比較ができることになる。であるならば、以下のように相場を捉えることができるのではなかろうか。ここでは、ロングポジションを例に説明する。

現在価格が26日前の価格よりも高ければ、相場は26日前よりも良い環境になっている。つまり、26日前に購入した投資家は現在の価格であれば評価益になっているからだ。逆に26日前よりも現在価格の方が安ければ、相場環境は悪くなっていると判断できる。つまり、26日前に購入した投資家は現在の価格であれば評価損を抱えていることになるからだ。
ということは、遅行スパンと26日前の価格がクロスするということは、評価益が評価損に変わる、または評価損が評価益に変わることを示し、相場の強弱が転換したことの確認になると考えられる。

一目均衡表は5本の線で描かれているので慣れるまで時間がかかるかもしれないが、使えるようにしておくべきテクニカル分析である、と筆者は考える。

▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。