第10回エンベロープ

「1たす1は、なぜ2になるの?1つの粘土と1つの粘土を合わせると大きな粘土が1つなのに。」と学校の先生に質問したのは、小学校に入学したばかりの発明王エジソンである。
エジソンの最終学歴は「小学校中退」である。なんでも、エジソンがいると他の生徒の迷惑になるという理由で小学校を中退することになったそうだ。
「出る杭は打たれる」という言葉があるが、出過ぎた振る舞いをすると非難を受けてしまうのはどの世界でもあるようだ。目立ち過ぎずに「和を貴ぶ」というのもわからないではない。
日本人は「和」を大事にする民族とも言われるが、それに関連した面白い実験結果がある。自分が50の利益を上げている時に、他人が70の利益を上げているとする。この場合、日本人は、一人だけが突出しないように、自分の利益の機会を逃してでも、相手の足を引っ張ろうとする。こうしたDNAが埋め込まれているせいか、なるべく目立たぬようにする「事なかれ主義」というのが日本では多い。そこには「平均」という心地の良い場所が待っている。

■エンベロープ

平均から乖離して、そこから平均に戻ろうとする動きは相場の世界にも存在する。
例えばこんな具合である。上昇トレンドが続く場合、移動平均線が右肩上がりに推移し、その移動平均線の上方を価格が推移するのが典型的である(「移動平均線の基本」編の「■移動平均線の特徴」の項目を参照。 )。そして、トレンドが続くのであれば、移動平均線から価格が放れていくことになる。

エンベロープ

上図はドル円の日足と20日移動平均線である。丸印を付けた部分を見ていただきたい。上昇ないしは下落が続くことによって移動平均線から放れた箇所である。このように移動平均線から価格が大きく放れるというのは、それまでの過去の平均的な値動きから異常に乖離するということでもある。しかし、上昇トレンドでも下落トレンドでも、トレンドが永遠に続くことはない。すなわち、価格が移動平均線から永遠に放れ続けて推移するということは不可能であるということだ。それは、移動平均線から放れすぎた価格は移動平均線へと戻るという動きになるということでもある。その証拠に、丸印を付けた箇所の後の値動きは20日移動平均線に戻る動きを示している。

もしそうであるなら、移動平均線からどれくらい放れる、つまり、どれくらい乖離したら、逆の動き、すなわち移動平均線に戻ろうとする動きになるのであろうか。それが分かれば、その乖離した水準近くに到達した時点で、その価格に対して逆張りのスタンスでトレードを行うことで利益が得られるであろう、と考えたくなる。
そこで、登場するのがエンベロープだ。

エンベロープ2

上図は20日移動平均線から上下に1%乖離させた線を引いてある。そして、丸印の箇所を見てもわかるように、移動平均線から1%乖離した水準にある線に到達するとそれまでの動きとは逆の動きになっているのがわかる。
実は、この乖離させて引いた線こそがエンベロープなのだ。

■エンベロープの設定

ここで問題となるのがエンベロープのパラメーター、すなわち移動平均の日数および乖離率の設定である。
まずは設定画面から確認してみよう。

エンベロープ3

エンベロープを選択すると、「エンベロープ(本数)」の項目で移動平均の日数、「エンベロープ値幅(%)」で乖離率を設定できる。

移動平均の日数の設定を小さく(少ない日数)すると、移動平均線は価格に近い動きとなるために、乖離率の数値によってはエンベロープに接する機会が少なくなることが考えられる。

エンベロープ4

上図では、移動平均を3日、乖離率を1%に設定したが、移動平均線が価格に近い動きになるために、価格が移動平均線から放れてエンベロープに接する機会がほとんどないのがわかる。

エンベロープ5

上図では、移動平均を100日、乖離率を1%に設定した。100日の移動平均となると移動平均線は価格と大きく放れて描かれることが多くなるために、1%の乖離率からも大きく放れた値動きとなっているのがわかる。

エンベロープ6

上図では、移動平均を20日、乖離率を1%に設定した。価格が適度にエンベロープに接した直後に移動平均線に戻ろうとする動きになるのが見て取れる。

為替の場合、個人的な意見を言えば、日足のエンベロープに関して10日から30日の移動平均を用い、乖離率は1%前後から始めるのがよいと考える。

なお、20日移動平均、乖離率1%のエンベロープを見ても、1%のエンベロープを超える場面も少なからず存在する。故に、エンベロープは複数本用意することを推奨したい。

エンベロープ7

追加」をクリックして2本目のエンベロープの設定を行うことによって、2種類のエンベロープを表示することができる。ここでは2本目の乖離率を1.5%に設定した。

エンベロープ8

1%の乖離率と1.5%の乖離率のエンベロープが表示されているが、1%のエンベロープを超えるケースでも、ほぼ2本目の1.5%のエンベロープの付近で流れが変わることが多いのがわかる。

なお、ドル円やユーロドルなど価格の単位が違うと通貨の違いによって移動平均の水準も違ってくる。故に、乖離率の水準も変わることになり、通貨の水準と日々の値動きの幅を参考に設定することになる。

是非、自分だけのエンベロープの設定を見つけてもらいたい。ここは他人と同じ数値にする必要はなく、「出る杭は儲かる」と考えた方がよいかもしれない。

▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。