第9回ポイント&フィギュア

「今晩、飲みに行かないか?」と訊かれ、「今日はマル!」と応えると、相手は「わかった」と返事をする。
各業界にはそれぞれの業界用語が存在する。この『マル』もその一つである。
実は証券業界では『無し』のことを『マル』という。例えば、「私の注文は出来ましたか?」と訊いて「『マル』です」と言われたら、注文が成立していないことを意味する。『マル』と聞いて「大丈夫だったんだ」と安心していると大変なことになる。他にも、数字などの検算をする際に、間違っていないことを『あいこ』という。例えば、「戦後の円のドルに対する相場の最高値は75円32銭だったよね?」と訊かれ、『あいこ』と応えたのであれば、それは「その通り、合っているよ」という意味である。
このように業界には昔から独特の業界用語が存在するのだが、世代交代とパソコン・インターネットの普及によりそれらの用語が消えつつあるのは寂しいものである。

■ポイント&フィギュアの特徴

ポイント&フィギュアは古くから使われているテクニカル分析である。筆者がファンドマネージャーの仕事に就いた時には既に存在していた。また、為替の分析をするのに便利なテクニカル分析であると言われていた手法でもある。ただし、その描き方には特徴があり、初めて描き始めた頃は戸惑ったものである。
なぜなら価格が上昇する際には『×』を、下落する時には『〇』という記号を描いていくからである。『上昇を良いこと』とするのであれば『×』ではなく『〇』を描いた方が良い。下落する時にこそ『×』を描くべきであろう、と思ったのも理由の一つである。しかし、上述した証券界の用語の使い方に照らすと少しは納得できた。
また、この『×』の列と『〇』の列は交互に描かれることになっている。つまり、×の列が連続して並ぶということはない。上昇の列と下落の列が交互に描かれるということになる。
他にも注意すべき点がある。ポイント&フィギュアは『非時系列』のテクニカル分析である、ということだ。これは時間の概念が存在しないということを意味する。例えば、日足のローソク足であれば、毎日1つずつローソク足が描き足されていく。故に、特定の日の値動きを調べたり検証したりすることができる。MACDやRSIにしても、日々そのデータは計算され、算出されている。
しかし、非時系列のテクニカル分析というのは、『何月何日』という概念が存在しないのである。つまり、グラフ上で価格のみを分析するということになる。この値動きだけを分析するということは、とどのつまり『トレンド』を分析すると言っても良いであろう。

■ポイント&フィギュアの例

まずはポイント&フィギュアがどのように描かれているのかをご覧いただきたい。

ポイント&フィギュアの例

これはドル/円のポイント&フィギュアである。縦軸には価格が表示されているが、横軸には時間が表示されていないのがわかる。例えば、矢印で示した価格を付けた時間(日付)を調べようにもポイント&フィギュアでは知ることができないのである。
これが非時系列のテクニカル分析の特徴である。

次に、価格が上昇している時には×印が縦(上方)に伸び、下落している時には〇印が縦(下方)に伸びているのがわかる。
また、×の列と〇の列が交互に並んでいるのも確認できる。すなわち、同じ種類の列が連続して表示されることはないのである。
つまり、ポイント&フィギュアでは上昇が続く限り×の印が真上に描き足される。そして、一番の高い位置にある×印より一定の値幅を減じると横の列に移り、下落を表す〇印が描かれることになる。逆に、一番下に位置する〇印より一定の値幅の上昇があると横の列に移り、×印を描いていくのだ。

■ポイント&フィギュアの描き方

具体的にポイント&フィギュアの描き方を見ていくことにしよう。
まず、1つの×や〇は一体いくらを表しているのであろうか、と同時にどれ位の値幅変動があったら列を変えていくのであろうか。ここでは一般的な使い方を紹介しておく。

実は描き始める前に投資家自身で決めなければならない項目がある。

  1. 1枠をいくらにするのか
  2. どれだけ逆の動きが生じた場合に列を変えるのか(つまり、〇から×、または×から〇)ということである。

グラフ上に描いていく×や〇を入れるマス目の一つを『枠』と呼ぶ。つまり、一つの枠に一つ印(〇か×)を記入していくことになる。
この1枠をいくらにするかは、記入する投資家自身で決められる。10銭でも20銭でも1円でも良い。

例えば1枠20銭と決めたのであれば、次にどれだけ逆の動き、換言すれば、何枠分の逆の動きが出現した場合に列を変えていくのかを決めなくてはならない。
一般的には『3枠』が使われている。つまり、例で言えば3枠分の60銭の逆の動きが出現したら、列を変えて描いていくことになるのだ。3枠で変えることを『3枠転換』と呼んでいる。

では、具体的にどのように描いていくのかを見ていくことにしよう。
ここでは、1枠を20銭と設定し、以下のような値動きがあったと仮定して描いてみる。

ポイント&フィギュアの描き方
ポイント&フィギュアの描き方2

まず、100円からスタートする。2日目に100円20銭に到達したので100.00から100.20の1枠に『×』を記入する。100円25銭という終値でも40銭の水準に到達していないので、40銭までの2枠目に×印は記入しない。3日目は100円15銭に下落するが、3枠以上の変化ではないので何も記入しない。4日目および5日目の上昇ではそれぞれ『×』を加えていく。9日目に101円50銭となるが、101円60銭には到達していないので101.40枠までの記入となる。10日目には101円25銭まで下落するが、高値からの3枠分下落ではないので何も記入しない。

そして、11日目だ。ここでは100円55銭まで下落している。つまり、3枠分以上の値幅の下落である。よって、列を変えて『〇』印を記入していく。ただし、100円60銭を割り込んでいるものの100円40銭には到達していないので、〇印はあくまでも100.60までの枠となる。

ここで問題なのが、〇印の記入が始まっている箇所である。101.40の×印より一枠下がった101.20より記入されているのがわかる。実は、列を変える時には1枠を空けることになっているのだ。すなわち、×印から〇印の列に変わる際には、一番高い位置にある×印より一枠下がった枠から3枠、〇印から×印の列に変わる際には、一番低い位置にある〇印より一枠上がった枠から3枠分動いて初めて列を変えることになる。3枠転換というのは、実は4枠分での転換ということになるのだ。
少しややこしいルールであるが覚えておいていただきたい。ということは、11日目の状態より上昇に転じて×印が記入されるには、101円40銭以上の終値を示現しなければならないことになる。故に、12日目に101円20銭まで上昇しているが、ここでは何も記入しないことになる。
ちなみに、この状態で100円41銭から101円39銭までの値幅で1年間「もち合い」になったとする。この場合、1年間、×印も〇印も何も記入しないことになる。これが非時系列の特徴で、時間は一切関係なく、価格の動きのみが表示されるデータとなるのだ。
ここで、注意をしておきたいのは、一枠の値幅を大きく取り過ぎると、乱高下しない限り列が変わらないケースが増えることになるということである。

■ポイント&フィギュアの見方

ポイント&フィギュアは非時系列のテクニカル分析であることから、価格の分析を主とする。しかも、決めた一枠分の値動きや枠数分の動きがない限りは記入しないので、直近の高値を超えた瞬間や直近の安値を下回った瞬間というのは、新しいトレンドが出たと判断できるケースが多い。したがって、下図のように一つ前の×の列の高値を超えたり、一つ前の〇の列の安値を割り込み新しい印が描き足された箇所をそれぞれの売買サインと考える。

ポイント&フィギュアの見方
ポイント&フィギュアの見方2

ドル円のポイント&フィギュアで売買シグナルを確認すると、上図のようになる。

  1. パターン分析
  2. チャート分析で言う『パターン』を形成した後に出現する新しい動きというのは、ポイント&フィギュアでも有効とされる。ここでは『ペナント』というパターンを形成した後に動き出すケースを見てみよう。

    ポイント&フィギュアの見方3
  3. トレンド分析
  4. チャート分析で使うトレンドラインという線がある。上値と上値を結んで引くのが上値抵抗線、下値と下値を結んで引くのが下値支持線となる。実はポイント&フィギュアでも同じようにトレンドラインを引き、上値抵抗線よりも下方で推移している場合は弱気相場、逆に下値支持線よりも上方で推移している場合を強気相場とする。なお、トレンドラインは45度のラインを基本とするが、チャートを表示するそれぞれのチャートシステムの問題もあることから、決して45度のラインに固執する必要はないと考えている。

    ポイント&フィギュアの見方4
  5. カウンティング分析
  6. カウンティング分析というのは、目標値を算出する時に使われ、垂直カウンティングと水平カウンティングの2種類がある。垂直カウンティングというのは安値や高値のポイントから売買のポイントが出た箇所までのマス目の数を売買のポイントの箇所に加えるというものである。
    ただし、筆者もファンドマネージャー時代にポイント&フィギュアを描いていたが、なかなか垂直カウンティングが適合する場面に出くわしたことがない。故に、次に説明する水平アカウンティングの方が好まれて使われているのもわかるような気がする。

    水平カウンティングというのは、もち合いを放れた際の目標値を計算するものである。持ち合いを形成しているという状態は、×列と○列が交互に複数本並んでいる状態でもある。実はその並んだ列の本数に転換する枠数の数字を掛けて算出された答えが目標値となると考えるのである。
    例えば、3枠転換のポイント&フィギュアで作成しているのであれば、もち合いとなっている列の本数が5本だとすると『5本×3=15本』となり、15枠分が目標値となると考えるのである。

ポイント&フィギュアの見方5

上図を見ると、高値で7列分のもち合いとなっていることから、『7×3=21』となり、21枠分の動きになるのではないかと目標値を考えることができる。実際には22枠分の動きがあった。
また、下値で5列のもち合いとなっていたことから15枠分の動きがあると予想されたところ、14枠分の動きがあったとなる。

このようにポイント&フィギュアは他のテクニカル分析とは違う特徴のある作成方法であることから、はじめは戸惑うと思うが、あとからポイント&フィギュアを見ると、『なるほどな』と納得する値動きが多い。
トレンドの転換点では「MACDで転換した値段とアイコだったね」ということも多いのだ。

▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。