第6回RSI

筆者は植木等の大ファンである。もう「植木等」と言っても、知っている若者も少ないであろうし、知っていたとしても「俳優」としての彼しか知らない人の方が多いのではなかろうか。植木等は「クレージーキャッツ」というジャズバンドのメンバーでもあるのだが、その「クレージーキャッツ」が昭和30年代、当時普及し始めたテレビに出演しコントを披露するようになってから国民的人気を得るようになる。メンバーの中でも一番人気を得ていたのが植木等なのだ。
彼の主演映画の一つに「無責任男」シリーズがあり、バイタリティ溢れたサラリーマンを演じているのだが、それはまさしく当時の日本経済が高度成長の真っ只中を走り抜けるエネルギーそのものの象徴であった。

ところで、植木等は数々の流行語を生みだしているのだが、上述した映画の中で使ったことから世間に広まった言葉がある。それが「C調」という言葉である。これは「調子がいい」という言葉をひっくり返したものだ。元々はジャズ仲間の中で使われていた言葉なのだが、調子のいい日本経済の中で、お調子者の主人公が、C調という言葉を使うことによって流行語になったのである。

しかし、「調子がいい」というのも永遠に続くわけではない。何事も行き過ぎると流れが変ってしまうものだ。社会の変化とともに人気も経済も変わっていく。

もちろん、相場も行き過ぎると流れ、トレンドが変わることになる。特に、相場は欲望の絡んだ世界であるがゆえに行き過ぎを見極めるのが大変難しい。

例えば、ドルが上昇すると思ってドル/円でドルを購入。予想通りにドルが上昇し評価益が膨らんでいったとしよう。

投資家の心理として「もっと上昇するのでは」という気持ちと同時に「もうそろそろ」という気持ちも芽生えてくる。どこで決済したらいいのかを見極めるのは、大変難しい作業になる。

「調子よく上昇トレンドが続いている。でも、そろそろ流れが変わる頃だろうか?」、 投資家は利益を最大限にしたいが故に、この「そろそろ」と闘うことになる。ところが、「そろそろ」というのはあくまでも感覚であって、結局「勘」に頼ることになる。こうした「勘」は常に安定して発揮できるモノでもない。

そこで、この「そろそろ」という感覚を数値化することによって、流れの変化を掴む確率を上げていく工夫が必要になる。

そこで登場するのが「オシレーター」というテクニカル指標である。ひと言で云えば、「買われ過ぎ、売られ過ぎ」を分析するテクニカル指標である。
買われ過ぎたから「売り」、売られ過ぎたから「買い」というシグナルが出るのである。
今回はオシレーター系のテクニカル分析の中の代表格でもある「RSI(Relative Strength Index、相対力指数)」を紹介したいと思う。

■RSIの考え方

RSIの公式から紹介したいと思う。いきなり公式から紹介されると身構える投資家も多いと思うが、RSIの場合は公式を見ることで、その考え方を容易に理解できると筆者は考えている。

(公式)

RSIの考え方1

たしかに、この公式だけを見ると、なにやら難しい式のように感じるのだが、公式に数字を入れてみるとそうでもない。ここでは任意の期間を10日にして考えてみよう。
10日間の値上がり幅の合計を10で割ることによってAを求めることになる。したがって、

RSIの考え方2

Bの値下がり幅平均は以下のようになるのだが、ここでの合計は値下がりといっても値動きの幅(絶対値)を求めることから、マイナスの数字ではなくプラスの数字として合計する。

RSIの考え方3

このAとBをRSIの公式に当てはめると以下のような式になる。

RSIの考え方4

ここで、中学校の数学を思い出していただきたい。分母に同じ「10」が入っていることから、「10」を消すことができる。
すると

RSIの考え方5

RSIはこのような式になる。

分母の「値上がり合計」+「値下がり合計」というのは、10日間の値動きの合計である。つまり、 「値動きの合計の中で値上がりの合計がどれくらい占めるのか」ということになるのだ。

値動きの合計

RSI 値動きの合計

図のように、値上がり合計の方が値下がり合計よりも大きいのであれば、「買われ過ぎ」となる。
このように見ると、RSIは決して難しいものではなく、投資家が「買われ過ぎ」ないしは「売られ過ぎ」と感じる感覚を簡単に数値化したものである。

■RSIの見方

RSIは0%から100%の数字で表され、0%に近いと「売られ過ぎ」、100%に近くなると「買われ過ぎ」となる。
テクニカル指標としては、RSIでは70%以上を買われ過ぎ、70%を超えた後に数値が減少に転じた時点を買われ過ぎからの「売りシグナル」とする。逆に、30%を割り込むと売られ過ぎとなり、30%を割り込んだ後に数値が上昇に転じた時点を「買いシグナル」とする。

売買のポイント
70%以上「買われ過ぎ」
売り
30%以下「売られ過ぎ」
買い
*数値が反転したときなどがチャンス

RSIを表示すると以下のように画面となる(ドル円の日足)。

RSI画面 ドル円の日足

<出所:セントラル短資FX>

下段にRSIが表示されているが、その数字が0%から100%で表示されているのがわかる。

■公式における任意の期間

RSIを考案したワイルダー氏の公式を見ると、RSIの期間(以下、パラメーター)は「14」として発表されている。また、1980年代後半に国内に輸入されたRSIの英文にも「14」という数字で紹介されている。したがって、その英文がそのまま訳されたことで、RSIの基本のパラメーターは「14」とする教科書、テクニカルシステムが多い。

しかし、この14という数字に問題がある。結論から言うと、「長過ぎる」のだ。
長過ぎるということは、なかなか買われ過ぎの70%以上、売られ過ぎの30%以下の数値が現れない、ということを意味している。

以前、大手出版社の投資雑誌のインタビューでRSIのことを取材された時に「14というパラメーターは長過ぎる」という話をしたところ、担当者から、「そうだったんですね。使っていておかしいと思っていたんです」という話を打ち明けられた。その担当者は自らRSIを使って投資していて、「1年間保有していてもなかなか買いシグナル、売りシグナルが出現しなかった」とのことだった。まさしく、パラメーターが長いという短所を端的に表したエピソードである。

RSI画面2

<出所:セントラル短資FX>

ここでは公式通りパラメーターを14としてRSIを表示させているが、この期間で買われ過ぎというサインが出たのは6月末から7月にかけての2回のみであった。その後、下落したものの、売られ過ぎの30%を割り込むことはなかった。

すなわち、パラメーターについては「14」以外の数値を検証することが必要になるのではなかろうか。RSIのパラメーターは14よりも短い方が相場の動きに合致するケースが多い、というのが筆者の経験則である。
特に、7から10のパラメーターで検証してみると、実際の値動きにおける買われ過ぎ、売られ過ぎの状態と合致するケースが多くなるのがわかる。

RSI画面3

<出所:セントラル短資FX>

前出した図と同じドル円のRSIだがパラメーターは「8」として表示させた。青線は70%の水準、赤線は30%の水準を表した線である。そして、青丸は70%を超えた箇所であり、赤丸は30%を割り込んだ箇所である。

したがって、筆者はRSIを使う際には、比較的短期のパラメーターを使用することをお勧めする。

なお、図の左側に現れている「買われ過ぎ状態で青丸が頻発」している部分については、RSIの欠点(後述)の箇所で説明する。

■ダイバージェンス

オシレーター系のテクニカル分析にはユニークな考え方がある。それが「逆行(ダイバージェンス)」である。

例えば、価格の動きの中で高値付近で推移する際、高値が示現した後に、更に高値を更新するという動きはよくある話だ。投資家の感覚としては、最初の高値形成の時点よりも高値が更新されているのであるから、買われ過ぎ状態が進んだという感覚になるのが通常である。この場合、RSIの数値も高値更新に合わせて上昇することが多い。
しかし、稀に価格は高値を更新したものの、RSIの数値は下落していることがある。
以下の図を見ていただきたい。

RSI画面 ダイバージェンス

<出所:セントラル短資FX>

これはスイスフラン/円の日足である。高値は更新されているにも関わらず、RSIの数値は下落に転じている。つまり、価格の動きとRSIの動きが逆になっている。これを「逆行(ダイバージェンス)」という。

このような現象が現れた場合には、将来、RSIが向かっている方向に実際の価格も動いていくことが多いといわれている。
もちろん、逆のケースもある。つまり、実際の価格は安値が更新されているにも拘わらず、RSIの数値が上昇に転じているケースである。これは、その後に価格が上昇していくケースが多い。

この逆行(ダイバージェンス)というのは、頻繁に現れるものではないが、天井や底値を形成する際に出現することがあるので、注意をして観察することをお勧めする。

■RSIの欠点

買われ過ぎ、売られ過ぎを分析するオシレーター系のテクニカル分析に共通する欠点がある。それは「トレンドに弱い」というものである。
つまり、上昇トレンドが続くと買われ過ぎ状態が続くことになる。そして、その段階で早めに「売りシグナル」が出現してしまうことになる。逆に、下落トレンドが認められる場合に、売られ過ぎ状態が続くことになることから、買いシグナルがトレンドの早期の段階で点灯してしまうことになる。
上述したパラメーターのグラフの中で、買われ過ぎ状態を表す青丸が頻発しているのもこの欠点に該当する。

RSIの欠点

<出所:セントラル短資FX>

これはポンド/円の日足であるが、上昇トレンドが続くと買われ過ぎ状態が続いてしまうのがわかる。

こういう場合にはトレンドに強いテクニカル分析を合わせて使用し、トレンドの強弱と同時にRSIの数値の推移を観察することをお勧めしたい。

▼ 筆者: 川口 一晃(かわぐち かずあき)氏

川口一晃氏

金融ジャーナリスト・経済評論家

1986年銀行系証券会社に入社。資産運用業務に従事。その後も銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)三洋投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
その後、ブルームバーグL.Pに移りアプリケーションスペシャリストとして投信の評価システムを開発し、ブルームバーグL.Pを投信の評価機関にする。
1992年ペンタゴンチャートに出会い、方眼紙に手書きでペンタゴンチャートを描き始める。以降、現在に至るまで分析を続けており、国内第一人者として多数の著書を持つ。
そして外資系証券会社等を経て2004年10月に独立、オフィスKAZ 代表取締役に就任。
現在までテレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。最近では、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。