第7回中空麻奈氏 BNPパリバ証券株式会社 グローバルマーケット統括本部 副会長

対談 中空麻奈氏

略歴

中空麻奈氏

慶應義塾大学経済学部卒。野村総合研究所入所。郵政省郵政研究所出向。1997年野村アセットマネジメントに転籍、クレジットアナリストとして金融セクター、ソブリンを担当。以降クレジットアナリシスに従事。2000年モルガン・スタンレー証券に移籍、事業会社セクターを担当。2004年JPモルガン証券に移籍、クレジット調査部長として全セクターを担当。
2008年BNPパリバ証券にクレジット調査部長として入社、2011年市場調査本部長。2018年7月チーフESGアナリストを兼務。2020年2月より現職。
経済財政諮問会議議員、財政制度等審議会委員。
著書『ユーロ連鎖不況』『早わかりサブプライム不況』『図解ソブリンリスク早わかり』『グローバル金融規制の潮流(共著)』などがある。

【知識・好奇心をどう広げるか?】

松田中空さんは仕事の面でも趣味の面でも、幅広い知識をお持ちですが、どのように養われたのでしょうか。

中空いろいろなことに興味を持たざるを得なかったという面は確かにあります。業界にはエコノミストやクレジットアナリスト、リサーチャーはたくさんいて、エコノミストでは日本経済を担当するのが一番の名誉と思われていたので、私も野村総合研究所に入ったときには日本経済の担当者になりたいと思っていました。しかし結局なれずじまいで、その後1997年に金融危機とアジア危機が起きたときに、クレジットって何て面白いんだろうということを発見したわけです。

松田中央銀行としては、ちっとも面白くありませんでしたけど(笑)。

中空1997年に野村アセットマネジメントに転籍したときに、自称ですが、日本でバイサイドのクレジットアナリスト第一号になりました。しかしその後様々な危機を経て、クレジット市場は凪状態となって金利もなくなり、クレジットアナリストの仕事もなくなっていきました。私は当時既に外資系にいたおかげで全セクターを担当していたので、まだラッキーでした。自分の強みは、薄く広くたくさんのクレジットを知っていることだということが分かったので、その後も生き残るために、カバレッジを広げていこうと思ったわけです。そのようにして幅を広げるやり方を、私は自分で「アメーバ戦略」と呼んでいます(笑)。アメーバのようになって、まだ人が入り込んでいないが、これから話題になりそうな分野に人より半歩だけそろりと先に入って勉強しておくわけです。それを次から次へと違うセクターに広げていきました。

【ネットワークは人に渡すことができない宝】

中空ESGもそうです。人より少し早く、2015、6年頃から勉強を始めました。そうしたきっかけになるのは、面白いお話をされる方にお会いしたときに、「この人のエキスパティーズをしっかり頭にとどめて、何かあったときにはお聞きしよう」と思うことです。これまでたくさんのそうした人にお目に掛かれたという財産を有効活用している点は、新聞記者と変わらないかもしれません。大事なことは、ネットワークが途切れないようにすることです。

松田確かに、それはなかなか一朝一夕にはできないことですね。

中空いろいろ人に教えることはできても、ネットワークというものは、「自分で何かを勉強して到達しました」という成果物とは言えませんから、人に譲り渡すことができません。だからこそ、強みになるわけです。今後ますますAIが活用されて情報を得るのが便利になっていくとしても、ネットワークのような「簡単には置き換えられないもの」を持っておくことは大切だと思います。

松田コロナの影響もあって、「人に会わなくても情報は集まるし、勉強も仕事もできることが分かった」とコミュニケーションやネットワークの重要性が後退したかのように思われるとすると、ちょっと残念ですね。

中空自分の経験上、「会って無駄だった」という人はいません。誰からでも必ず学べるところが一つや二つはあるので、「それを頂きましょう」という気持ちが大切です。私も早く何かを差し上げられる人間になりたいですが、まだ頂くことの方が多いような(笑)。

【周縁情報から得られるもの】

松田人とのつながりを、「ためになる人、ならない人」とあまりにドライというか効率性の観点で線引きしてしまうことは、人生を必ずしも豊かにしないように思いますね。

中空私のようにリサーチする人間にとっては、特にそうです。今は大方のことがインターネットで調べられますが、以前研究所にいたころには、本で調べごとをしていると、脇に書かれている一見無駄なことがいっぱい目に入ってくるわけです。調べたかったことよりも脇の知識の方がはるかに増えたりすることもあります。ところが、そこで得た周縁の知識は無駄になるのではなく、今の私のいくばくかの部分を形成しています。一見効率的とはいえないチャネルからの情報の取り入れも、意識して行うべきだと思います。その際に、幅広い好奇心を持っていることが、どこかで味方してくれるのではないでしょうか。

松田スマホでもインターネットでも、一度閲覧した記事に関連する記事がどんどん優先的に表示されてくるのに慣れてしまうのは本当に恐ろしいことだと思います。世の中で何が起きているかに気付き、意見や価値観の多様性を知るには、新聞の紙面を繰って、まじめに読む記事の周辺に載っている情報にチラと目が行くことが極めて重要ですね。

中空新聞は、世の中の人の照準や興味がどこにあるかを知る上でのバロメーターになります。

【半歩先をどう踏み出すか?】

松田先ほどご紹介頂いた「人の半歩先」を進む方向はどのようにして見付けられるのでしょうか?

中空やはり、いろいろ人と話している成果だと思います。私が頼りにしている3人の人達が興味を持っておられるテーマがあるとすると、「もうこれは絶対来るな」と私は思うわけです。それが自分の知らないことだったとすると、「何を言っていたのだろう、調べなきゃ」という気持ちになります。不良債権問題もそうでした。人々が「不良債権、不良債権」と言い始めたころには、不良債権が多そうな銀行のリストを作り上げていたことで、少しだけ「勝ち組」になれたわけです。

【ビジネスパーソンにとって専門性は必須か?】

松田中空さんはもちろんプロフェッショナルでいらっしゃいますが、学生時代やキャリアの最初から「自分はこの分野で勝負する」と決めつけていると、かえって運や機会を掴み損ねたりする可能性もあるように思います。ご自身の経験から、専門性志向をどうお考えになりますか?

中空麻奈氏

中空私自身、「その分野は知りません」、「その分野に興味はありません」と言うのは好きではありません。アナリストやリサーチを志望する人たちには、野次馬根性と思われようが、何にでも好奇心を持つのがよいとよく話します。今の日本で、マルチタスクの人、ジェネラリストよりも専門性がある人が高く評価される風潮があるのは、ちょっと残念です。一部の特殊な才能がある人は別として、22、3歳で自分の人生を賭けるものが決まっているはずもない以上、試行錯誤して自分に合ったキャリアを見付けるのも、立派なビジネスパーソンとしての生き方だと思います。

松田私も30年以上勤めた前の職場(日銀)でいろいろな分野の仕事をしましたが、むしろそれでよかったと思っています。民間企業に限らず、中央銀行であっても、時代の変化に応じて新しいミッションに取り組む必要が出て来ます。そうしたときに、「あいつはあの仕事もこの仕事も一応できたのだから、これもできるんじゃないか」と思ってもらえることは、チャンスなわけです。そのときはなぜ自分が選ばれたか分からないとしても。

中空麻奈氏

【クレジットを見るとはどういうことか?】

松田ご専門分野であるクレジット分析に当たって、格付やCDS(クレジット・デフォルト・スワップの略称)といった、一応客観的とされる指標をどこまで頼りにされていますか? あくまで一つの材料に過ぎず、本当の見極めは、アナリスト個人の総合的な経験や力量に拠るものでしょうか?

中空格付は、むしろ間違ってくれることが、私のお給料の源泉です(笑)。自分なりに調べて考え方を固めたうえで格付も見るわけですが、その作業はテストの答え合わせのようなものです。当然ながら、99%のケースで両者は一致するのですが、たまに違うものがあれば、それこそがわたしにとっての目の付け所になる、というわけです。それを投資アイデアの基本としていくので、格付機関が間違えてくれることの方が私には嬉しいわけです。とはいえ、格付機関はその経験とそれに裏打ちされた分析手法で格付を付けているので、安心して参考値と思って見ていただきたいと思います。

松田なるほど。

中空もう一つ知って欲しいと思うのは、見る人によって企業に対する目線が違うということです。大企業で自分も就職したいぐらいの会社の格付が高くないなら、それはなぜだろうと理由を考えて欲しいと思います。実感と格付が一致しないときは、実は投資のチャンスかもしれないので、なぜかということを調べて、それでも格付の方が低過ぎると思われるときは投資の狙い目だと思います。私はそのようにしてきました。なお、CDSはもう少し客観的な指標ですが、何かが起こったときにバーッと取引が増えるようなものではありません。「本当に危険そうだ」というときにはスプレッドが広がりますが、債券のマーケットは相対取引がほとんどなので、大きく動くとは限りません。最終的に元本が返ってくるのであれば評価損が出ても構わないと思えば、それほどリスクが価格にビビットに現れません。

【ESGにどう取り組むべきか?】

松田ESGの重要性に関しても中空さんは先鞭をつけられたわけですが、例えば、温暖化の理由は二酸化炭素の排出だけではなく、太陽の活動や火山の噴火といった人間にはどうにもできない要因の影響の方が圧倒的に大きいという人もいます。今回のロシアのウクライナ侵攻で、エネルギーや燃料資源確保のあり方が抜本的に見直されるかもしれません。「引き続きESGを優先度の高い目標として掲げ続けることが本当に正しいのか?」との疑問が広がることはないでしょうか?

中空私も実は最初、似たような疑いを持ちました。ボランティア活動の範疇に見えていたわけです。金融機関は利益が出そうなところには目鼻が効くものですが、その立場から見ても、「これはいかにも儲かりそうにないな」と思っていました。SOX法対応のように、いずれアニュアルレポートに一枚「当社のESGはこうです」みたいなものが入るイメージかと(笑)。それでも欧州の金融機関が熱心に取り組んできた大きな理由は、欧州の金融機関が押しなべてアメリカの金融機関に押され続ける中で、「何で生きて行きましょうか」と皆が考えた結果、「もうこれしかない」と辿り着いたのがESGだと思っています。ESGがビジネス上すごくプラスということはないとしても、「これをやらないと同じ土俵にすら上がれない」との感覚が築き上げられてきたということです。しかも戦うツールという点ではコストに関わる話なので、コストをいかに管理するかが極めて大事です。「アップサイドがなくて儲からないからやりたくない」と腹落ちしていない経営者の方は、「戦うためには土俵に上がらなければ話にならない。そのコストをどうミニマイズするか」を考えるべきです。

松田ESGの物差しが、コロナ、戦争、米中対立などで変動してしまって、何をすべきかが分からなくなってしまうリスクはないですか?

中空確かに今、ウクライナの問題で、脱炭素どころではなく、石炭などをもっと使用せざるを得ないとの認識も広がりましたが、揺り戻しがあってESGがなかったことになる事態にはならないと思います。日本はもともとリソースがなくても、ここまで発展してきたわけですから、技術を使って資源をどう安く買えるか、などいろいろ考えて、それを武器にできるチャンスが来ている気がします。また、例えば中国国債は日本と格付が一緒で、向こうは2%金利が取れてこっちはほとんどゼロだとしたら、投資としては中国国債を買うべきだが、ウイグル自治区の人権問題を考えたらこれは投資の目線に合うかどうかという議論があります。問題があればこれを改善することがESGにおけるエンゲージメントだとすると、エンゲージしていくしかないわけです。投資家が「ここはすごく好きだが、ここは駄目」と思うなら、「この点はいずれ問題になる」と言わなければなりませんし、そこにお金を貸す金融機関も指摘しないといけません。エンゲージすることで、自分なりのストラテジーや軸を貫く投資家が生まれてくる必要があります。現実を見ながら、どのようなバランスを取ればよいかということを行きつ戻りつしながら、落ち着く場所を模索していくことになるでしょう。

【投資に当たって大切なことは?】

松田FXに限らず、投資に関心のある人達に中空さんから助言するとすれば、どのようなことになりますか?

中空第一に、リサーチを行う人や新人に対する研修で、私はよく、「この企業はどういうところで利益を上げているのかを考える癖をつけよう」と話します。考えることが頭の体操になります。電車の中での空き時間などでもいいので、「この企業はどこから利益を上げているか」が分かると、「何が起きるとこの会社にネガティブな影響が及ぶか、原油価格が上がったらこのセクターやこの会社にはよくないのではないか」といった発想に結びついていくわけです。第二に、許容できるリスクということを考えて投資してもらいたいです。飲みに行ってお金を使うのと同じ感覚で、ゼロになっても大丈夫な部分での投資にまずは限って行うこと。その代わり、その範疇で決めたことについては、ゲーム感覚でよいと思っています。自分の好きなこと、好きなもの、好きな国、好きな通貨、好きな企業に投資して、その分野でどういうことが起きるのかを、知的ゲームとしてぜひ楽しんでほしいです。ですから、レバレッジを大きくすることを推奨する気はまったくありません。リターンを増やそうと思えば、一生懸命働いて元本を増やすべきです。元本が増えればポートフォリオを作れるようになるので、そこまで至ってほしいですね。繰り返しますが、許容できるリスク量を必ず決め、「もう少しいいか」とは絶対に思わないことです。ギャンブルと同じで、一回当たると次も当たる気がしてしまうものですが、実際は違います。

【外国為替投資とリスク管理のポイントは?】

松田許容するリスク額を決めても、思ってもいなかったことが起きればあたふたしがちですが、ブレないための「軸」は、どのように見つければいいでしょうか。

中空やはり、最悪の事態さえ想定しておけば慌てないで済むと思います。時期を区切れば株は一方向に上がることも多く、投資のコツが見付けにくい面がありますが、FXは意外とコツが必要だと思っています。米ドルならそれなりの流動性もあり、相場が行ったり来たりすることが多いので我慢できないこともないですが、南アフリカランドやトルコリラを取引しようと思うと結構な覚悟がいるわけで、その場合にはいくつか限定して投資してみるというのが普通だろうと思います。そうすれば、買った通貨の国のことは深く調べることになり、相場が動く力関係も見えてきます。すると今度は、自分はどのような通貨が好きか、どのような動きが好きか、どのようなボラティリティを取りたいかを考えることで、うまく行ったときのコストや失敗したときの理由が見えてきて、それを調整しながら段々と進化していく、ということになるのです。好きな通貨に高い金利が付いているとしたら、その理由も考えて欲しいわけです。高い金利がつくということは、それなりの理由があるということですから。時々刻々と動くマーケットの中で自分の見方が当たったときの楽しさは格別なので、ぜひそれを体験して欲しいと思います。

松田FX業者にとっても、どの通貨ペアをお勧めするか、という姿勢は会社のリスク認識に応じて随分違います。これは「好き嫌い」で決めているわけではありませんが(笑)。例えば、当社の現在の主力商品はメキシコペソです。中南米諸国の中では政治・経済の安定度が相対的に高く、経済動向もアメリカと連動する傾向があります。取引を始めるのに必要な証拠金の額がドルの二十分の一ほどだというのも魅力です。