第5回押川浩士 日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)

対談 押川浩士 日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)

2022年2月6日(日)、13日(日)の2夜(20時~20時55分)にわたって、ラジオ番組「PRESIDENT STATION」(ミュージックバード系列の全国コミュニティ・エフエム約100 局へ配信)で、バリトン歌手の押川浩士氏と弊社社長(松田)との対談が放送されました。同番組と押川氏の許可を得て、対談での素敵な話題をご紹介します。

略歴

押川浩士氏

日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)。宮崎県出身。国立音楽大学と同大学院を修了。2010~11年のイタリア留学中に、トスカーナ州アレッツォ市のコンクールで優勝し、オペラ「ラ・ボエーム」でイタリアデビュー。これまでに「セビリアの理髪師」、「ドン・ジョヴンニ」、「ジャンニ・スキッキ」、「カルメン」など数多くのレパートリーをこなし、ミュージカルでも「サウンド・オブ・ミュージック」、「マイ・フェア・レディ」、「美女と野獣」などに出演。藤原歌劇団に所属、洗足学園音楽大学の非常勤講師を務める傍ら、多摩ジュニア・ミュージカルも主催。

松田 つい先日も、押川さんが「カルメン」に出演された舞台を拝見しました。これまで色々な役を演じて来られた中で、好きな作品、思い入れのある作品は何ですか?

押川 オペラでは、やはりバリトンが主役のものが好きです。演じる役の苦しみや美しいところもわかり、共感しやすいという点で、ヴェルディ作曲の「リゴレット」が一番好きです。ただ、曲が難しく、音域がものすごく高いので、見るのと演じるのでは全く違います。オペラ愛好家の松田さんはどのような楽しみ方をされていますか?

松田 スターが来日して競演する舞台もいいのですが、ドイツに4年半住んで、小さな町のオペラハウス、いわゆる「小屋」といわれる、それほどレベルが高くなくとも地域が支えているオペラを、それを支える現地の人と一緒に楽しむことができたのも貴重でしたね。
押川さんは、ミュージカルにも積極的に出演されていますが、オペラとの違いはどこにありますか?

押川 ミュージカルはマイクを使いますが、オペラはノーマイクで、自分の身体を楽器として響かせます。オペラは1回の公演で、自分の限界のところで失敗するか成功するかというギリギリのところで勝負しなくてはいけないというのが弱い部分でもあり、良い部分でもあります。ミュージカルは「マイク乗り」の良い声、共鳴させすぎない声で歌いますが、オペラでは存分に共鳴させないとホールが響かないので、発声の段階で違いがあります。

松田 オペラの方が堅苦しく、決まりが多いというようなことはないですか?

押川 ミュージカルは公演数が多いので、毎回違うことをやってしまうとバランスが崩れて来るので、例えばバラの花を落とすときの角度なども全て細かく決まっています。

押川浩士 日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)1

松田 オペラファンにも薦められるミュージカル作品は何ですか?

押川 例えば、劇団四季の「ライオンキング」ですね。少しの隙もないぐらい完璧に作られていて、出来すぎていると思うぐらいです。「リトルマーメイド」も感動します。踏み込んでみると、これはいいというものがたくさんあります。

松田 オペラでの魅力的な女性像や、憧れる役はありますか?

押川 色々な役を演じていく中で、自分の好みも変わってきましたね。世の中では、「人間として当たり前のこと」をしている人が最終的に好まれるのだと思いますが、オペラというのはそもそも異常者の集まりで(笑)、それでなければ物語になりません。「カルメン」も色々な男性を手玉に取って、これじゃあ最後に刺されても仕方ないわ、と私も思いますが、でも魅力的なんです。この駆け引きが面白いんですね。「カルメン」のバリトン役で、エスカミーリョという闘牛士が出てきます。この役が、自分でもよくわかりませんが、もてはやされるのです。この役をやると本当に気持ちいいです。舞台に出ただけでワー、キャー言われて、1曲歌って去っていくような役です。

松田 確かにカルメンも悪女のように言われますが、多分女性目線で見ても、ある意味筋が通っていて、自分に正直だから、あのような運命になってもシンパシーが感じられ、だからこそ、これだけ人気があるのでしょう。

押川 ロッシーニの「セビリアの理髪師」のフィガロは床屋ですが、見ても演じても、ものすごく共感できて好きです。中身はあまりありませんが、口が達者でも失敗もして、最終的に結果オーライ、ハッピーエンドで終わるわけです。ところで、松田さんは、聴く側、見る側として憧れる役はありますか?

松田 若い頃は、柄にもなくヘルデン(英雄)テノールが歌うような役に自分を重ねる夢想にふけったこともないではないですが(笑)、年を重ねて惹かれるのは、ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のハンス・ザックスですね。大人の分別、風格、諦観を備えながらも、人間らしい生臭い気持ちも十分には抑えきれない葛藤に共感し、憧れる部分がありますね。
ところで、音楽などの舞台芸術は、コロナ禍で最も打撃を受けた分野のひとつだと思います。押川さんもキャンセルになった公演があったと思いますが、コロナを経て音楽への向き合い方や、お客さまの反応の変化を感じられますか?

押川 舞台芸術にとって厳しい時間はまだまだ続いていますが、「本当に何か新しい方法を探し出さなくては」と皆がチャレンジして、舞台の方法、上映する手段、お客さまにお願いすることなども大きく変わってきたように思います。

松田 実際に会場に行けない分、色々な配信が充実したのは、受け取る側にはありがたいですが、音楽を届ける側には不満もあるのでしょうか? それとも、新たな供給チャンネルとしてポジティブに捉えられますか?

押川 やはり劇場でお客さまと一緒に音楽を感じ合うのが仕事の基本ですので、メディアでの配信だけでは不十分な気がします。メディアでそうした臨場感を実現しようと、いろいろ試みられましたが、ライブ感はなかなか伝わりません。

対談 押川浩士 日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)

松田 私のように、コロナで舞台の魅力を改めて強く感じた人も多いと思いますが、今後の日本で愛好家を増やしていくために押川さんが取り組んでおられることをお聞かせください。

押川 子どもたちに本物が持つ「何か」を伝えたいとの想いから、オペラ歌手の鳥木弥生さんと一緒に「多摩ジュニア・ミュージカル」というのを6年前に始めました。二人ともオペラの歌手ですが、子どもには、より身近に感じられるミュージカルを教えることにしました。

松田 その活動も、コロナで影響があったのではないですか?

押川 昨年暮れに、3年近く延期していた公演をようやく実現しました。子供たちも舞台の感動を味わったようで、終わった後も家でずっと歌っていたといった話も聞き、実現して本当によかったと思います。ご近所の演奏家の方をお呼びしてワークショップをするなど、地域での活動の輪も広がってきています。コロナ以前に年1度行っていた発表会では、ホールのお客さまの前で子供たちが表現する、人前で自分を出すという点に一番重きを置いていましたが、これができなくなって、ウェブで配信をしていました。配信するには一つの作品を細切れにして撮って行くわけですが、子供たちは一体何が起きているのか十分理解できないのです。出来上がった作品は長く残りますし、映像としても面白いのですが、子供たちにその最終形態が見えない以上、やはりライブできちんとお客さまの前で行わないと意味がないな、と強く感じました。

松田 確かに、「聴く人」の裾野が広がることも大事ですが、「実際にやってみよう」という人が増えるのも、クラシックやミュージカルが広く親しまれるうえで非常に意味がありますね。オペラの楽しさをもっとアピールするには、どうすればいいでしょう?

押川 オペラは、どこにでもあるようなお話を題材に、それを面白おかしく表現したり掘り下げたりしていますが、本筋的にはわかりやすいものが多いと思います。それをどんな風に見せていくのかがポイントです。ミュージカルは配信でもショーとしてのよさが伝わりますが、オペラでは本物の生の音を伝えることに重きが置かれているので、配信では伝わりにくいところがあります。モーツァルト、ヴェルディ、ロッシーニ、ワーグナーなどが作ったクラシカルな作品を、後々の世代の我々が演出を変えながら、歌手は変わっても、同じ作品をやっているわけですが、一度筋を覚えてしまえばずっと楽しめるのがクラシックの強みです。

松田 「これから挑みたい」と思っておられる役や演目は何ですか?

押川浩士 日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)1

押川 自分の使っている楽器である「声」に合った作品というのがあるので、それを生涯ずっと歌い続けるのが、これからやりたいことです。ロッシーニやモーツァルトなどの作品で、声の軽い人が歌う役をこれまでやってきましたが、そうした役は自分も好きで得意だと思っています。「セビリアの理髪師」のフィガロ役は動きも多いですし、歌もハードでセリフも多く、こうした役は年を重ねていくと、なかなかできなくなります。これをずっとやり続けられる歌手は本当に実力があるということなので、今できていることをもっと極めて、生涯、こうした役をやっていければと思います。もう一つ、私は音奏人(かなでびと)というグループで、ジャズとクラシックが融合した作品も歌っています。昨年発売されたCDに入っているハンガリー舞曲もその一つです。本職のオペラに加えて、「多摩ジュニア・ミュージカル」や、こうしたNEO CLASSICSにも、自分の技術を活かしてチャレンジしていきたいと思います。

(番組で放送された曲〈いずれも押川さん歌唱〉)

Musica proibita ~禁じられた音楽~(スタニスラス・ガスタルドン作曲)
・マイ・バラード(松井孝夫作詞・作曲)
・ハンガリー舞曲第5番(ブラームス作曲)

松田からひと言

番組でも流していただいて、耳をそばだてた方も多いと思いますが、昨年発売された初のアルバム「Musica proibita~禁じられた音楽~」では、オペラ、ミュージカルから日本歌曲までの幅広いレパートリーで、押川さんの美声と力強さとユーモア、そして芸の多才ぶりを堪能できます。

押川浩士 日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)1

押川浩士 日本オペラ振興会 オペラ歌手(バリトン)1

押川浩士氏ファーストアルバム「Musica proibita~禁じられた音楽~」

オペラ歌手 押川浩士オフィシャルサイト