新年明けましておめでとうございます。本年も充実したコラムを書きたいと思っていますので、応援よろしくお願いいたします。
2017年は【欧州選挙年】という位置づけであり、かなり政治色の強い一年となりそうです。そこで、今週のコラムでは、「2017年の欧州とユーロ【オランダ編】」と題し、3月の総選挙について解説してみました。日本ではあまり注目を浴びていませんが、ウクライナとの協定にNOを突きつけたオランダです。総選挙の結果によっては、反EU気運が更に強まる可能性も出てくるでしょう。
「2017年の欧州とユーロ」は全4回に亘り書く予定です。皆様のユーロ取引をする際にお役に立つと嬉しいです。
今年実施される選挙日程は以下の通りです。ここでは、英国のEU離脱交渉開始日(3月30日まで?)も念のために入れておきました。
これ以外では、ギリシャとイタリアで解散・総選挙の可能性が指摘されていますが、現時点でははっきりしないため、省略しました。
オランダ下院(総議席数:150)には、いくつもの小政党があります。ここでは、特に人気を集めている上位4党をご紹介します。
・自由民主国民党(VVD)
ルッテ首相率いるVVD党。選挙をするたびに、第一党か第二党の座を確保している。
財政均衡 / |
賛成。 |
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対欧州政策 |
欧州委員会が設定した財政規則に違反したユーロ加盟国に対する自動的な制裁金を課す案に賛成。加盟国の財政赤字削減努力に改善が見られない場合、当該国がユーロ圏から離脱することを支持。EUは最強の国家連合となるべきだという固い信念がある。 |
対ギリシャ |
ギリシャに対するこれ以上の救済支援には反対。 |
・労働党(PvdA)
原子物理学者であり国際的な環境保護団体であるグリーンピースの活動家として有名だったサムソム氏がずっと党首であったが、2016年秋に行われた党首選で、ローデウェイク・アッシャー元副首相が新党首となった。
財政赤字に |
財政均衡を急ぐ為に国の経済が打撃を受けるのであれば、財政赤字対GDP比3%の目標達成には、もう少し時間を掛けてもよいという考え方。 |
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対欧州政策 |
今すぐにではないが、最終的には『ユーロ圏共同債』に賛成。 |
欧州中銀 |
欧州中銀の役割強化を支持。 |
対ギリシャ |
ギリシャの財政再建に対し、もう少し時間を与えたほうがよいという考え方。 |
・社会党(SP)
党首のレーマー氏は「ドイツが支持する財政規律の強化は、欧州の景気回復を著しく損ねている」と常に語っていて、インフラ整備や住宅市場復興を目玉とした成長重視路線を支持。
財政赤字に |
財政規律を優先する政策よりも、成長重視の路線への変更を目標としている。 |
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対欧州政策 |
他のユーロ加盟国に対する支援金支払には消極的で、自国の財政改善措置を重視している。ユーロ圏では特に北欧州が主導となり、域内全体の景気回復を先導すべきという考え方。 |
欧州中銀 |
欧州中銀の責務の中に「労働市場の活性化」を加えることを支持。 |
対ギリシャ |
これ以上のギリシャに対する救済には反対。 |
・自由党(PVV)
2010年総選挙で、ウィルダース党首率いる極右政党:自由党が第3党に浮上し、オランダだけでなくヨーロッパ中を驚かせた。同党首は反イスラム思想の持ち主として有名であり、オランダのユーロ圏・EUからの離脱を叫び続けている。
対欧州政策 |
オランダは完全な独立国家となり、EUやユーロ圏からの離脱を希望。 |
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国民投票 |
ウィルダース党首は、英国と同じく「EU離脱の是非を問う国民投票」を呼びかけていて、自由党が政権を取った場合は、国民投票の実施とイスラム系の国からの移民禁止を公約に掲げている。 |
2016年に特に顕著となったポピュリズム・反移民気運の高まりを受け、極右政党:自由党(PVV)の支持率が大きく伸びています。ただし、多数の政党が存在するオランダ下院における自由党単独政権の実現は不可能であり、ほぼ100%の確率で連立政権となります。そのため、自由党推薦の全ての選挙公約が議会を通る可能性は低いでしょうが、姉妹党であるフランス極右:国民戦線(FN)のルペン党首への注目度が高まることは避けられないと考えています。
データ:数々の報道
ヨーロッパでは、昨年12月にドイツのベルリンでチュニジア人の難民申請を却下された男性がテロ行為を行い、その後3つの国を自由に移動して、イタリアのミラノで取り押さえられました。2015年11月にパリで起きたテロ事件も、難民としてヨーロッパに入国した人物が実行犯となっています。これらの事件を受け、ヨーロッパでは難民問題や、域内の移動の自由が保証されているシェンゲン協定に対し、疑問を投げかける人も多くなっています。自由党は、まさにこの気運に乗っかり、支持を伸ばしているようです。
欧州連合(EU)とウクライナの間では、経済・政治分野での関係強化を意図した連合協定が2014年に調印され、2016年1月1日に仮発効しました。この協定終結に向け、EU加盟28ヶ国のうち、オランダを除く27ヶ国は批准手続きを終了しています。
しかし、昨年4月にオランダでは、この協定の是非についての国民投票が実施され、投票結果は、賛成38.1% vs 反対61.1%と大差をつけてのNOとなりました。投票結果には法定拘束力はありませんが、同国を除く全ての国で批准手続きが終了し、仮発効されている協定に対し、オランダ人があらためて投票を行い、否決するという前代未聞の事態となりました。
欧州関係者は、そもそもこの協定に関する国民投票を行うこと自体に反対していて、NOという結果は間接的にロシアの肩を持つ意味にもなるため、EUの存在そのものを揺るがす大問題であると警鐘を鳴らしていました。
ちなみに、オランダで国民投票を実施するには、2つのステージがあります。まず最初は、国民投票のリクエストをします。このリクエストに4週間以内に1万人以上の賛成の署名があれば、次のステージに進みます。2番目のステージでは、このリクエストに対し、6週間以内に、30万人以上の署名が必要となります。これら全てを満たしたリクエストは、国民投票の実施が可能となります。実際に投票となった場合、最低投票率は30%と決められていて、これに満たない場合は、投票結果は無効と見なされます。
自由党が第一党となっても、連立を組みたいと希望する政党は、見つからないでしょう。そのため、第二党以下の政党同志が集まって大連立を組む可能性が高まります。しかし、「第一党抜きの」新政権に対する国民感情は悪くなることが考えられ、第一党が最大野党に廻れば、議会の動きも相当荒れることが予想されます。
これが原因となり、オランダ発欧州崩壊やユーロ危機を招くことはないと私は考えますが、投資家のオランダ国債離れは起きるかもしれません。
それ以外の問題として、オランダも英国のようにEU離脱の是非を問う国民投票の実施に動くか?それが非常に気になります。すぐ上に書いたように30万人の署名が集まれば、国民投票が行える国です。この国の人口は約1,700万人、選挙権がある人たちは約1,200万人。そうなると、30万人は有権者数の2.5%ですので、ハードルはそんなに高くないのかもしれません。
世論調査結果のところで、「この党が第一党となると、姉妹党であるフランス極右:国民戦線(FN)のルペン党首への注目度が高まることは避けられない」と書きましたが、その理由はこの2つの党は姉妹党であり、思想が非常に似ている点が挙げられるでしょう。わかりやすいように、欧州内のポピュリズム政党の比較をしてみました。
「EU」・「ユーロ」・「移民」の全てを否定しているのは、フランスの国民戦線とオランダの自由党だけです。ただし、自由党は移民全般というよりは、反イスラム色が強い点が特徴です。
補足となりますが、オーストリアの自由党のEU観については、「もしトルコのEU加盟が認められた場合に限り、オーストリアはEUから離脱すべきである。」という考え方を披露しています。
ウィルダース自由党党首は、昨年12月にアラブ系の人種差別の発言をしたことが理由で有罪判決を受けています。同党首は移民に対する過激な発言で有名であり、【オランダのトランプ】という異名も持っているそうです。
そして、今から7〜8年前ですが、英国の内務省は同党首の英国への入国を拒否したことがあります。同党首は自身が作成した反イスラムの映画をロンドンで上映するために、ヒースロー空港に到着しましたが、英国内務省は、「公共の安全を脅かす」との理由で入国を認めませんでした。当然ですが、オランダ外務省は、「EU加盟国の議員が、同じEU加盟国に自由に移動できないことは問題だ。」とやり返しましたが、英国の決断は変わりませんでした。
新年早々、トランプ次期大統領のTweetが話題を呼んでいます。米ゼネラル・モーターズやフォードに対し、海外で生産する車の米輸入に対する関税についてや、海外に生産拠点を移すことに対し、批判を続けています。そして、1月5日にはとうとう日本のトヨタ自動車のメキシコ工場建設計画についても、批判ツィートを載せました!
「Toyota Motor said will build a new plant in Baja, Mexico, to build Corolla cars for US. NO WAY! Build plant in US or pay big border tax. トヨタ自動車が、アメリカ向けのカローラを生産するためメキシコに新しい工場を作ると言った。とんでもないことだ!アメリカ国内に工場を作れ!そうでなければ、高い関税を払うべきだ。」という内容です。
このTweetを受け、海外市場でのトヨタ自動車株価は下落し、ドル円も115円台に突入しています。
これはドル円の週足、青いラインは200週移動平均線(SMA)、下の赤いラインは200週移動平均線からの乖離率となっています。そして、乖離率のサポート/レジスタンスを結んで黄色いハイライトを入れてみました。
現在ちょうど乖離率がレジスタンスの辺りに近づいてきているのが分かります(黄緑の丸)。果たしてここから一気に上に抜けてドル高/円安となるのか?それとも、一旦上昇が中断し、調整局面となるのか?際どいところです。
次に、ドル実効レートを見てみましょう。この原稿を書いている時点では(東京時間1月6日午前6時)、102.71となっていて、まだロウソク足の形は完成していませんが、一旦下に調整が入ってもおかしくない形にも見えます。
出典:ストックチャート
1月6日は米雇用統計が控えていますので、数字次第ではドル高に動く可能性は捨て切れませんが、もし上げに失敗した場合は、ドル実効レートは102から100ミドルくらいまでの調整が入ってもおかしくないかもしれません。