3月に入ってから、マーケット全体の動きがぎくしゃくしてきました。飛ぶ鳥を撃つ勢いで、上げ上げ相場に乗っかっていたドルも、ここにきて調整を強いられています。欧州中銀(ECB)の量的緩和策のおかげで、歴史的高値を次々と更新していたドイツの代表的株価指数:DAXも、今月に入ってから動きが鈍くなってきました。米国の株式市場に目を移すと、今週水曜日に発表された2月の耐久財受注が市場予想を下回る下落となり、米景気回復に対する懸念から、ダウジョーンズは前日比292.60ドル安となり、2週間ぶりの安値をつけたのです。
当然ですが、翌日の日経平均株価もその影響をまともに食らい、久しぶりに心理的節目の1万9,500円を下回って終了。これを受けて、ドル円も118円台まで下げ幅を拡大しました。
このような不安定な相場展開が繰り広げられる発端となったのが、先週マーケットを騒がせたヒンデンブルグ・オーメンです。
株価の先行きに警鐘を鳴らすシグナルとされている「ヒンデンブルグ・オーメン」。これは、NYSE(New York Stock Exchange ニューヨーク証券取引所)で取引されるものを対象としたテクニカル分析であり、いくつかの条件が重なった特殊のパターンが起きた場合、株価暴落の前兆と恐れられています。
ヒンデンブルグという名前は、1937年にドイツの飛行船「ヒンデンブルグ」がアメリカで爆発炎上した事故の名前を取ったようですが、いかにも不吉な響きですね。
ヒンデンブルグ・オーメンが発生したと判断するには、いくつかの条件があるようなので調べてみると、下記の4つの条件が同じ日に起こった時に、このパターンが点灯したとみなされるようです。その条件とは、
そして、一度シグナルが点灯すると、その後30日間、シグナルは有効となるとも書かれていました。
私はこのシグナルの専門家ではありませんので、ありとあらゆる報道を読み比べて情報を収集してみたのですが、総括すると「このシグナルが点灯すると、株価/株価指数は77%の確率で5%以上の下落を起こす可能性がある」という結論に達しました。個々の可能性の数字をご紹介すると、
一番最後に書かれているように、シグナルが出たにもかかわらず下落とならなかったのは、25回中、たった2回だけだったようで、かなり的中率が高そうですね。
先ほど申しましたように、私はこのシグナルには詳しくありませんが、いろいろ読んでいるうちに、シグナル点灯のタイミングの解釈にも、かなり差があることがわかりました。例を挙げると、今年に入ってから既に7回点灯したという説があるかと思えば、先週3月中旬に今年はじめて点灯が確認されたという話もあり、いったいどれを信じてよいのかわかりません。しかし、実際にこのヒンデンブルグ・オーメンという言葉があちこちで聞こえはじめたのが、ちょうど3月18日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が実施された頃と一致するため、私は「先週3月中旬に今年はじめて点灯が確認された」という前提で話しをすすめていきたいと思います。
百聞は一見にしかずと言いますので、過去のシグナル点灯後のマーケットの動きをチェックしてみましょう。最初は、2010年8月です。このときは、6.4%の下落となっていました。同時期のドル円は約5円の円高/ドル安となっています。
チャート:セントルイス連銀ウェブサイト
次は、2012年です。ここでも、8.2%下落していました。ドル円では、約3円の円高/ドル安です。
チャート:セントルイス連銀ウェブサイト
そして、2013年には4.2%、昨年は7.4%それぞれ下落となっていました。ドル円は、3〜5円の円高です。やはり、これが点灯してから株価が下落する確率は、高いようですね。
チャート:セントルイス連銀ウェブサイト
チャート:セントルイス連銀ウェブサイト
今回は、FOMCがあった3月18日に点灯した (チャート上の赤点位置)という前提でお話しをすすめていきますが、仮にそこから5%下落した場合、ターゲットは1994.52となります。偶然かどうかわかりませんが、今年に入ってからの安値とあまり差がありません。
チャート:セントルイス連銀ウェブサイト
文頭で申し上げましたように、ヒンデンブルグ・オーメンは、NYSEで取引されるもののみが対象となるため、日経平均や欧州各国の株価指数は、その対象外です。しかし、そうは言ってもアメリカの株価が急落すれば、その影響は必ず他の地域/国へも及びます。特に、ECBのQE策の実施で、バブル状態とも言われているドイツ、フランス、イタリアやスペイン各国の株価指数は、歴史的高値を連日更新していることもあり、調整が入るのは時間の問題だとも言われていました。
ただし、もし本当にこのシグナル点灯により、米国株式指数が軒並み急落し、それが欧州に飛び火したとしても、ECBのQE策は今後も継続しますので、一旦下落による調整が終われば、またジリジリと上がっていくと、私は考えています。
日本の日経平均に関しては、正直あまり自信がありませんが、最近新聞などでよく耳にする「5頭のクジラ」 の買い支えにより、下げをこなしながら、また上昇する官製相場が継続するのではないかと見ています。ここでいう5頭のクジラとは、1)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 2)国家公務員共済組合連合会(KKR)に代表される3共済 3)かんぽ生命 4)ゆうちょ銀行 5)日銀であり、これらの買い余力は、合計で20兆円を超えるとの試算もあるようです。1)2)は既に日本株保有比率をポートフォリオ全体の25%まで高めると発表しています。 3)4)は共に今秋の株式上場を計画しているため、運用収益を高めるためにも国債偏重の運用から、株に移し替えていく計画となっているそうです。そして、最後の5)日銀は、ETF(上場投資信託)買いを進めています。この5頭のクジラがお腹一杯、日経を買って買って買いまくるまでは、思わぬタイミングで株価が支えられ、ショートにしている人はイライラするかもしれません。
私達のようにFX取引をしている者としては為替への影響が気になりますが、日経平均が下がれば、相関性の高いドル円も円高/ドル安になるでしょう。欧州に目を向けると、ECBのQE策の影響で、株式市場は大きく上昇し、単一通貨:ユーロは急落しました。今度はその反対方向の動きが出ると考えられ、株価は下落するなか、ユーロは上昇することになります。
チャート:ドイツ証券取引所ウェブサイト
先週のFOMCでは、「利上げ時期後退の可能性」「ドル高の弊害に関する言及」を嫌気して、一気にドル売りが加速し、その後全戻ししたにもかかわらず、今週は一転して再度ドル安方向への調整が続いています。それに加えて、ほぼ毎日のようにFOMC理事達の講演が続き、そこでもドル高による弊害についての言及が目だってきました。
これだけを取っても、溜まっているドルのロングを、一旦利食う動きが出て当然ですが、そこにきて、「ヒンデンブルグ・オーメン」が点灯し、株価の急落リスクが出てきたのです。
そして悪い時には悪いことが重なるようで、今週木曜日のヘッドラインでは、サウジアラビアがイエメンに対して軍事介入するというニュースが流れました。これは万が一悪化すると、イスラムのスンニ派対シーア派という宗教戦争にもなりかねない深刻な問題です。
簡単にここまでの動きを説明しますと、イスラム教シーア派の武装組織「フーシ」は、イエメン北部で打倒イエメン政府のスローガンをかかげて、昨年秋から政府関連のビルなどを破壊しはじめました。その後フーシは南下し、今年2月にはイエメンのハディ大統領を監禁し、政権掌握を一方的に宣言しました。幸い、大統領はすきをぬって脱出に成功し、南部へ逃亡しているようです。
この「フーシ」の裏には、大国イランの存在があり、サウジアラビアなどのイスラム・スンニ派は、イランの勢力拡大に対し、多大な危機感を抱きました。自身もスンニ派であるハディ大統領は、お隣のサウジアラビアに救援を要請し、サウジ・カタール・クウェート・バハレーン・UAEの湾岸5ヶ国が共同で空爆を決断したようです。
今後、陸での戦いになる可能性も指摘されており、その際には、湾岸5ヶ国に加え、エジプト、パキスタン、ヨルダン、スーダンなどがサウジに応援兵を提供すると支持を表明している模様。ここで気になるのが、今回のイエメン空爆報道に見え隠れするアメリカの存在です。
アメリカは空爆には参加しておらず、あくまでも「物資・情報収集面での支援」をオバマ大統領が承認しただけですが、今回の問題に非常にナーバスになっている理由は、テロ組織:アルカイーダの存在です。アルカイーダは、アラビア半島ではイエメンに本拠地を置いています。ですので、今回のゴタゴタに便乗して、ますます勢力を拡大し、新たなテロ行為に結びつくのをアメリカは非常に警戒している模様。
もうひとつの懸念材料は、シリアで勢力を伸ばすISIS(過激派組織「イスラム国」)です。彼らはイエメンで勢力を拡大している「フーシ」を怒らせるために、シーア派のモスクをわざわざ爆破しているのです。アルカイーダも、ISISもスンニ派であるため、果たしてサウジ連合軍が同じスンニ派の彼らを攻撃の的にするのかは疑問ですが、中東和平が乱れると、株価の下落に拍車がかかったり、為替市場でもますます「リスク・オフ」が強まり、思わぬ円高などにならないとも限りません。特に3月末は第一四半期の締めにあたるだけに、四半期の収益を確保する意味からも、ここまでで一番利の乗っている株式や通貨のポジションの益出しが出てきて当然のタイミングとも言えます。
とりあえず、ドル円に関しては、過去のヒンデンブルグ・オーメンの時に、3〜5円の円高/ドル安になっていることを考慮すると、下値は最大で116円台まで視野に入れなければなりません。ユーロに関しては、1.07ミドル〜1.12ミドルのレンジで見ています。