今年のマーケットは、非常に不安定であるだけでなく、持続性が乏しく、コロコロと目先のテーマが変わってしまうのが特徴のようです。アルゼンチン、トルコ、そしてウクライナと続き、今度は中国に関する話題が市場を賑わせているのが、その証拠。
中国に関しては、昨年から【シャドーバンキング(影の銀行)問題】が注目を集めていましたが、この中核商品である理財商品のうち、60兆円規模が今年中に返済期限を迎えると言われています。既に、1月には返済が出来ずデフォルト寸前になった案件が出ましたが、急遽救済策が施されギリギリのところでデフォルト回避。そして今月に入ってからは、太陽光発電関連メーカーが先週予定していた社債の利払いを全額は履行できず、中国本土の公募社債として初のデフォルト状態に陥りました。
私はロンドン在住ですので、日本に住んでいらっしゃる読者の方に向けて中国関連記事を書くということは、釈迦に説法であるのは十分に承知しておりますが、円相場にも影響を与える可能性を秘めている中国問題について、私なりの考えを書いてみたいと思います。
先月最後の取引日であった2月28日、中国の中央銀行である中国人民銀行(以下、人民銀行) が大量の人民元売り/ドル買いの介入を実施し、一時的に前日比0.85%の人民元安を記録しました。
人民元という通貨は、1日の変動幅が固定された管理フロート制を導入しています。2007年5月に変動幅を0.3%から0.5%へ拡大した後、2008年9月に起きたリーマン・ショック以降、一時的に1ドル=6.83元に固定するため、中銀の人民元売り介入が繰り返されました。その後、2010年夏からは、従来の変動幅内での管理変動相場制へ移行。そして、最近では、2012年4月に変動幅を0.5%から1%へ拡大する動きに出ました。そのため、先月末の人民元売り介入による人民元下げ幅は、1日としては過去最大を記録したのです。
はっきり「これです!」というものは判りませんが、考えられるものとして、以下3点を挙げたいと思います。
今月発表された2月分中国貿易統計で、中国は大幅な貿易赤字を計上しました。私もそのニュースを聞いて驚きましたが、輸出が前年比−18.1%という大きな落ち込みを見せたことを受け、貿易収支は予想の119億ドルの黒字に対して、229億8000万ドルの赤字という信じられない結果へ。その前月(1月分)の数字は、320億ドルの黒字でしたので、1ヶ月でここまで変わるものなのか?と今でも不思議な気持ちです。この大幅な貿易赤字の発表を受け、中国の景気が大きく鈍化するかもしれないという懸念は当然強まったと考えられます。
文頭でも書いたように、今年だけでも60兆円規模の理財商品が満期を迎える中国。今後ますますデフォルト懸念が高まってくることは避けられず、投資家による人民元離れが始まった証拠と見る向きもあるようです。
「Buy my Abenomics (アベノミクスは買いだ!)」、この言葉通り、安倍政権発足以来、日経平均株価は57%上昇し、ドル円相場は19円もの円安となりました。これを快く思っていない中国が、ここにきて元安誘導を強化したという噂も出ています。
人民銀行による人民元売り介入が中国全国人民代表大会(全人代)を控えたタイミングで実施されたことを受け、閉幕直後に、人民元の変動幅拡大が実施されるのではないか?という見方が優勢を占めてきました。
そして全人代で李克強首相は、経済成長率7.5%目標達成が難しい場合は、中銀の追加金融緩和の可能性や、人民元の変動幅拡大などが実施されると発言し、その前日に中国人民銀行の周小川総裁がインタビューで、変動幅拡大を検討していることを示唆した言葉を受け継いだ形となりました。
ブルームバーグ社が行なった変動幅拡大時期に関する調査では、29人のアナリストのうち、20人が4〜6月期に実施を予想。3人は今月中、4人が7〜9月期と答えています。
2012年4月に変動幅拡大に動いた時の人民元相場を振り返ってみると、初日の取引で人民元は強くなっています。ただし、ここで気をつけたいのは、変動幅の基本となる毎日の中心値を人民元高方向で設定するのか?人民元安で設定するのか?その方向性を知ることが、中銀がここからの人民元をどちら方向に動かせていきたいのかを探る手がかりとなると私は考えています。
この記事を書くにあたり中国に関する報道を読み進んでいくうちに気になったのが、最近の中国の米国債保有についての記事でした。年末に一気に保有を減らしたと書いてあったので、その数字を管理している米財務省のウェブサイトを調べてみました。
外貨準備高の3割以上を米国債購入に向けている中国。昨年もその傾向には変化なく、リーマン・ショック以降の購入額は、2009年に続き2番目に高い額に達したそうです。しかし、このチャートの右端の部分を見ると判りますが、作年末に向けて保有額が急激に減少しているのが確認出来ます。あまりに気になったので、2012年から一番最近の数字まで財務省のデータを自分のエクセルに載せ直し、毎月の購入額と前月の額との差を出してみました。それがこのチャートです。
これを見ると、中国は2013年12月に478億ドルの米国債を売りこしたことが判りました。規模としては、保有残高全体の約3.6%に値します。
更に調べていくうちに、478億ドルの内訳が判明しました。それによると、478億ドルのうち、431億ドル分はBill (Bill=期間1年以下の短期債) となっており、残りの47億ドル分がNotesとBonds(Notes=期間1年超〜10年以下、Bonds=10年超の長期債)だそうです。短期債中心に減額したのだから問題ないと言い切ってよいのかどうかは、私自身が国債取引に従事した経験がないので、わかりませんが、これだけの額を減らす背景には何があったのか、気になっています。
人民代が開幕した2日後、中国で新たな懸念が発生しました。
その日、中国政府が、本土初となる太陽光発電関連メーカー:上海超日のデフォルトを承認したことをきっかけに、シャドーバンキングでのデフォルト増加に対する警戒感が一気に高まりました。今年だけでも、日本円に換算して60兆円分の理財商品の満期が来るため、初のデフォルト容認により、今後も同じようなケースが続出すると心配されています。この気になる中国版シャドーバンキングの規模ですが、昨年上半期時点の数字では、日本円に換算して約500兆円となり、GDP比60%というとてつもない規模。
中国問題に疎い私には、シャドーバンキングでのデフォルト懸念と銅価格の急落との関連性がよく判らないため、調べてみたところ、非常に密接に結びついていることが判りました。
それは、シャドーバンキングで資金調達する際に担保として使用される頻度が多いのが、銅やIron Ore(鉄鉱石)であり、特に銅に関しては、中国が輸入する60〜80%の銅がシャドーバンキングでの担保として使用されているそうです。
次に、一体どのくらいの銅を中国は輸入しているのか調べてみると、今年1月の中国(本土)の輸入高は、53万6000トンとなっており、前年同月比53%増。2月になると、輸入高は若干減りましたが、それでも37万9000トン輸入しています。私はいままでずっと、銅という資源は工業用の使用がメインだとばかり思っておりましたが、中国では資金借り入れの担保という金融的価値のほうが大きくなってきたようです。そう考えると、銅の輸入が大きく増えた1月は、銅を担保とした借り入れが大きく増加したという証拠なのかもしれません。
そして、そうやってファイナンスした資金が絡んだ案件がデフォルトし、デフォルトの連鎖という事態にでもなれば、それが銅をはじめとした商品市況全体の急落を招かない保証はどこにもないでしょう。事実今週前半には、特に欧州系リアルマネーが、自社のポートフォリオにおける資源ポジションの調整に動いたという話しが聞こえてきました。つまり中国の金融問題が、世界の金融市場参加者に対し持ち高調整を強いた形になりはじめたのです。
今週に入ってからも、Baoding Tianwei Baobian Electric Co.という会社が2年連続の損失を計上、同社の社債や株式の取引が一時停止されています。これにより、デフォルト警戒感があらためて高まり、銅価格も下落という悪循環。さらに恐いことに、この会社以外の炭鉱関連会社12社のデフォルト懸念も囁かれており、ますます銅の下落が起こりやすい地合いになってきたようです。
自分なりに調べた結果、人民元の変動幅拡大は「もし」から「いつ」へと変わってきたようです。それなら、転ばぬ先の杖で、最後に拡大された2012年4月のマーケットは、どのようなリアクションをしたのかを、調べてみましょう。
まず日経平均株価は、変動幅拡大後1ヶ月で、9,500円台から8,600円台まで900円の下げ。
通貨に関しては、中国と関係が深いAUDと円を取り上げてみました。
ドル円、豪ドル/円ともに急激な円高、AUDは急落しているのが確認出来ます。
どうして中国の通貨変動幅の拡大により、日経が下がったり円高になるのかについては、正直よくわかりません。
ただ、英FT紙の記事を読んでいたら、そのヒントが書いてありました。それによると、ここ最近の人民元高を通して、ヘッジファンド勢のポジションが多く積みあがっているようです。昨年1年間で中国に流入してきたホットマネーの額は、5,000億ドル相当と言われており、ヘッジファンドの人達は、ゼロ金利で日本円を借りてきて、円売り/人民元買いを繰り返していたとされています(キャリー取引)。そして今年に入ってから、人民銀行が大規模な人民元売りに打って出て、変動幅拡大という話しになってきた。それなら、利益確定の人民元売り/円買いという巻き戻しが起きて当然だという論調です。
この記事の書き方がおもしろく、「このアジアで最もコントロールされた2つの通貨の組み合わせ −ひとつは自国通貨を安くしようという決意を固めた政府がコントロールしている円と、管理フロート制の人民元」と書かれていました。果たして円安がコントロールされたものであるのか?という議論は一旦おいといて、この大きなキャリーポジションの巻き戻しがおき、円高/人民元安になるのであれば、タイミングを逃さず大波に乗りたいと思います。