金曜 松崎美子の英国発!すこしFX☆なが~くFX

美子トーーク!トーク内容を公開します

Brexitを巡る英保守党の分裂劇

更新日:2017年9月29日

Brexit(英国のEU離脱)を巡り、英国の政治シーンは大きく揺れています。秋の英国は、年に一度の党大会開催時期とも重なり、否が応でも政治ネタが多くなりがちですが、今年はBrexit交渉を巡る、与党:保守党内部の分裂が連日報道されています。

このコラムでは、政治ネタは極力避けるようにしておりますが、展開次第ではポンドに影響を与えることにもなるため、日本ではほとんど報道されていない英国保守党の分裂劇についてお伝えしたいと思います。

ボリス・ジョンソン外務相の反逆

9月15日(金)、英テレグラフ紙に、ボリス・ジョンソン外務相が「自分の描くBrexit像」を寄稿し、全ての問題はここから始まりました。

テレグラフ紙への寄稿

ジョンソン氏の寄稿の主な内容は、

  • 寄稿内容が、メイ首相やデービスBrexit担当相が公にしているBrexit像と違っている
  • 2016年6月に実施された国民投票前、EU離脱派は「EUへの拠出金額は、週3億5,000万ポンドに達する。英国がEUを離脱すれば、このお金が国民医療サービス(NHS)の財源となる」と主張。しかし、投票後にこの主張は嘘であったと認めた。しかし、今回のジョンソン外務相の寄稿では、「Brexit後は、毎週3億5,000万ポンドの財源をNHSへ廻すことが出来る」と、改めてこの嘘を蒸し返し、真実であると主張している
  • 2年間の交渉終了後、シングル・マーケット(欧州単一市場)へのアクセスは断念し、英国は1銭たりとも支払うべきでない

などとなっています。この内容は、「2年間の交渉期間終了後に『移行期間』を設け、その間はシングル・マーケットへのアクセスを確保することを優先し、その代わりに使用料としてEUへ拠出金の支払いを認める」という保守党の主張とは、大きく食い違います。

そもそも党の決定に背くような寄稿をすること事態、あり得ないことですが、議員が政策に関する持論を投稿する場合は、党の許可が必要であり、ジョンソン外務相はこの規則も破っていたそうです。

ジョンソン外務相の真意

どうして党の規則を破ってまで、このような寄稿をしたのか?それは、6月8日の解散総選挙で、過半数議席に届かなかった保守党:メイ首相の指導力に陰りが出ているからです。大方の見方では、ジョンソン氏はメイ首相に揺さぶりをかけ、首相交代を狙ったようです。

保守党議員たちの動き

この記事が出た翌日の9月16日(土)、多数の保守党議員がメイ首相に対し、規則破りのジョンソン外務相の更迭を訴えました。しかし、メイ首相は自身の立場が弱すぎることもあり、大胆な決断を避け、何の手も打っていません。

メイ首相、Brexitに関する3度目の演説

ジョンソン外務相が寄稿した1週間後の9月22日、メイ首相はイタリア・フィレンツェで3度目のBrexit演説を行ないました。

これが3回それぞれの演説内容ですが、回を追うごとに英国のBrexit姿勢が軟化していることが分かります。

3人の閣僚も同行

この日のスピーチを聞くため、英国からはハモンド財務相、デービスBrexit担当相、そしてジョンソン外務相もわざわざフィレンツェに飛び、最前列の席でメイ首相の演説を聞いていました。演説の原稿は、前日(9月21日)の議会で承認されているため、これら3人の閣僚たちも当然内容は知っておりますが、メイ首相への元気付け(?)の意味もあり同行した模様です。そして、後日この3人の同行費用が問題にもなっています。

演説内容

私もメイ首相の演説を聞いていた一人ですが、遅々として進まない離脱交渉に不満を持っているEU側に対し、相当の譲歩を見せた・・・というのが、最初の印象でした。

主な内容をまとめましたが、2年間の交渉期間終了後の「移行期間」に関するものが多く含まれています。

  • 「移行期間」を約2年間設定する
  • 「移行期間中」は、
  1. シングル・マーケットへのアクセス継続
  2. EUへの拠出金支払いを認める
  3. 人の移動の自由を認める(ただし、入国方法が一部変更)
  4. 欧州司法裁の権限を間接的に認める
  5. 現状と変わらないEU法/規定を適用
  • 正式離脱後、在英EU移民の権利を守ることをBrexit最終案に織り込む
  • 在英EU移民の権利について欧州司法裁の関与を認める
  • EUへの「慰謝料/手切れ金」について詳細は避けたが 話の内容から、約200億ユーロと推定される

となっており、EU側が強く希望していた北アイルランド国境問題や通商関係のモデルについての詳細は、述べておりません。

メイ首相の演説を受けて・・・・

演説翌日の週末、英国での報道はこの演説に関するものばかり・・・と言っても過言ではありません。その中のいくつかをご紹介します。

・2年間の交渉後もEU離脱に動けない英国
2019年3月29日に2年間の交渉を終える予定の英国。しかし、特にビジネス業界からの強い要請もあり、交渉終了の翌日から、2年間に及ぶ移行期間を設けることを、メイ首相は提案しました。

演説によると、移行期間中も今までと変わりなく、シングル・マーケットへのアクセスを維持する代わりに「使用料」を納めます。つまり、英国が本当の意味でEUから離脱するのは、交渉終了の2019年3月29日ではなく、2年後の2021年3月末であるということです。

2年間の交渉終了後、さっさとEUと縁を切りたいジョンソン外務相をはじめとするBrexit強硬派は、移行期間中のシングル・マーケットへのアクセスとその「使用料支払い」に、不満を述べています。

・移行期間設定は、メイ首相の無能力/権限の欠如の代償
メイ首相の3度にわたる演説内容を見ていただくとわかりますが、回を追うごとにBrexit姿勢が軟化しています。しかし、特に今回の3度目の演説に関しては、「英国がBrexitに対して、姿勢を軟化したとは捉えず、メイ首相には保守党のBrexit強硬派と残留支持派の意見の違いをまとめる権力がないため、演説作成の締め切りまでに断固としたBrexit像を描けなかったことによるもの」と言われています。

・移行期間が短すぎる
残留派だけでなく、英商工会議所やビジネス業界からは、「短くても3年。できれば5年間の移行期間を希望」する声が多く、ハモンド財務相も英国経済を守る目的で、できれば3~5年の移行期間を希望しています。しかし、この部分はBrexit強硬派の意見(移行期間なし)と残留派の意見(3~5年間の移行期間)の間を取って、「2年間」とされた模様。

ここからのポンドについて考える

それでは、このような政治危機が、ポンドにどのような影響を与えるかについて、考えてみたいと思います。

これは私が作成したポンドを取り巻く環境を天秤に乗せて比較したものです。買い・ニュートラル・売り、それぞれ1つずつとなり、これを見る限りは「ニュートラル」と判断できます。しかし、英国に住んでいる身としては、利上げ間近という理由でポンドが買われていることは理解できるのですが、「政治」の部分が重石となっており、素直にポンドを買いから入れない自分がおります

しかし見方を変えると、ポンドをどの通貨に対して買う/売るのか?も大事で、例えば私のように対ユーロや対ドルでポンドのポジションを持つことが多い人と、対円でポンド取引をする人とでは、かなり違うことでしょう。

これは、4大主要中銀の金融政策スタンスをまとめたものですが、英中銀と欧州中銀(ECB)が緩和策の解除(出口戦略)を語り始めた今、日本は「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和」政策を継続し、長期金利を0%付近に「固定」させている状態です。その場合、諸外国の長期金利は緩和解除/利上げの思惑でプラス方向に振れますが、日本だけはずっと0%あたりとなるため、金利差による円売りがどこかの時点で確実に出てくることになるのではないでしょうか?

そこでポンド円の週足チャートに200週移動平均線(SMA)を入れて調べてみました。200SMAとの乖離幅を見ると、過去に現在と同レベル状態だった時(2つの黄緑の丸の部分)、一度下げて、また上昇するジグザグの動きになっています。もし、今回も同様の動きとなれば、チャート上のピンクの点線部分(145~148円台)までの調整を経て、再度上昇に転じることも、可能性として考慮したいと思います。