第5回為替相場の変動要因

為替相場の変動要因または考え方としては、以下のようなものが挙げられます。

【基本的要因】

  1. 国際貸借(収支)説
    日自国の経常収支が黒字の場合、取引によって得た外貨を自国通貨に交換する動きが強くなる傾向があらわれます。経常赤字の場合はこの逆になります。
    英国の銀行家で政治家でもあったG・J・ゴッシェン(1831-1907)が唱えました。
  2. 購買力平価説
    為替レートは、その通貨が持つ購買力により決定されるとの考え方です。対比される二つの通貨(例えば円と米ドル)のそれぞれの自国での購買力が等しくなる水準に為替レートが収束すると考えます。例えば、米国で1ドルの値段に相当するものが、日本でいくらするかに応じて為替相場が決まるという考え方です。
  3. 金利差
    円やスイスフランのような低金利通貨を借り入れ、豪ドルのような高金利通貨に交換し国債などの資産で運用する資本取引が市場で大規模に行われると、為替相場に影響します。

【心理的・技術的な要因】

  1. 地政学的リスク
    かつてマーケットで聞かれた「有事のドル買い」などのように、戦争や大きな国際紛争が起きると、保有する通貨を「持っていると安心な通貨」に乗り替えて(避難させて)おこうとする動きが見られます。
    最近では、「安全資産としての円」が注目されることもあります。政治的、軍事的、経済的な緊張感の高まりが、相対的に安心して保有できる通貨の保有意欲を高める現象は今も見られます。
  2. 季節的要因
    企業の決算期末の3月と9月(日本の場合)は、利益確定のために外債など海外で投資していた資金や事業会社の海外での利益を円に換えて本国に戻す、いわゆるレパトリエーションの動きが活発になることがあります。一方、決算明けの4月と10月からは、機関投資家などが新たな外債投資を行うことも多く、急速な他国通貨買い自国通貨売りが進むことがあります。
  3. 通貨当局
    中央銀行などの通貨当局は、為替相場が乱高下したときに、自国通貨の安定を図る目的で、為替市場に介入することがあります。これを、「外国為替平衡操作」、あるいは単純に「為替介入」などと呼びます。
    とくに、複数の中央銀行が同時一斉に行う、いわゆる「協調介入」はインパクトが大きく、相場を大きく動かすことがあります。そのため、市場関係者は、中央銀行の動きを常に注視し、介入の可能性を見守っています。
    日本では、「日銀が介入」というニュースを耳にすることがありますが、介入の権限は財務大臣が持っており、日銀は財務大臣の代理人として為替の売買を行います。 また、実際に売買の形で介入を行わなくても、通貨当局者が通貨政策や金融政策について発言する場合も、市場にインパクトを与え、相場の変動要因となることがあります。これを「口先介入」と言います。
  4. 市場参加者の心理
    今日では必ずしも適切な表現とは言い難い面はありますが、有名な経済学者のケインズが唱えた「美人投票論」というものがあります。
    当時の「美人投票」では優勝者に投票した審査員も賞金をもらえたので、賞金を手にしたければ、自分が一番美人だと思う人に投票するのではなく、多くの人が投票しそうな人に投票するのが一番有利でした。
    相場でいうなら、自分がいいと思った対象(ドルなど)ではなく、多くの人がいいと思いそうな対象に投資するのが有利と考えて個々人が行動する結果、そうした対象に買いが集まって値段が上がるというものです。

    また為替相場は市場参加者の心理(期待や不安)によって変動するとの説(為替心理説)を、フランスの経済学者アフタリオン(1874-1956)が唱えています。
    例えば、「ドルが上がりそうだ」と思う市場参加者が増えると、ドルが買われて市場全体の持ち高が「ドルの買い持ち」(ドル・ロング⇔ドルの売り持ち=ドル・ショート)に傾きます。しかし、ドルがある程度上昇すると、今度は「このあたりで売っておこう」という利食いの売りが市場の大勢を占め、上昇する勢いが弱まります。
    何らかの理由でドルが売られ始めると、最近までドルを買っていた市場参加者に不安感が広がり、今度は慌ててドル売りに動くため、ドルを買ったレベルを下抜けて損失が出る領域に達することもあります。
    そこで損失覚悟のドル売り(ストップロス)が出ると、相場は更に下げ足を早めます。大方のストップロスが出尽くし、多くの人が痛い思いをした所で市場は沈静化していきます。

【テクニカル的要因】

チャート分析

長期、中期、短期の様々なレートのチャートを見ながら、相場が内在的に抱える運動エネルギーの法則性を見極めながら将来の通貨動向を予測する手法です。
「このレベルを抜けると、相場の動きが一方向に加速しそうだ」というポイントを見極めつつ、売買を行います。
マーケット全体がドルの買い持ちに偏っていた場合、多くの市場参加者がストップロスを入れるのは、「ドルがそれ以下には下がりにくい」という水準(サポート・ポイント)近辺です。
仮に、そのレベルを下に抜けると、ストップロスを入れなくてはならない市場参加者が慌ててドルを売ってくるため、ドルの下げ足が余計に早まります。
逆にドルが上昇するときには、「この辺でドルの上昇が止まるのではないか」というチャート上から見たポイント(レジスタンス・ポイント)があり、逆にそのポイントを上に抜けると、ドルの上昇に拍車がかかります。市場で「輸出企業のドル売りオーダーが何百本もあるからドルの頭が重いだろう」と噂されていたにも関わらず、そのレベルをあっという間に大きく突き抜けてしまうことがあるのも、こうした要因が影響しています。