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いつまで続くドル売り材料とショートカバーの鬼ごっこ

更新日:2017年8月17日

マーケットの焦点

ドルは8月上旬下落し、中旬に向けて反発に転じ、昨日は再び反落した。
この間のドル/円とユーロ/ドルの推移は、
 ドル/円 108円台後半→110円台後半→109円台後半
 ユーロ/ドル 1.19台前半→1.16台後半→1.17台後半と文字通りのアップダウン
8月上旬は北朝鮮の地政学的懸念やFRBの引き締めスローダウン観測など、種々のドル売り材料に焦点が当たってドルは下落したが、中旬に向けては悪材料織り込みや“悪材料の反証”が出てショートカバーが入った。

まず、

  • 米朝間の緊張では米国およびロシア・中国から対話による解決策が出、また金労働党委員長の「米国の行動をもう少し見守る」発言で緊張緩和。
  • FRBの緩和スローダウン観測に対し、ハト派のダドリーNY連銀総裁の「年内もう1回の利上げ支持」などのタカ派発言。加えて予想を上回る7月小売売上高や8月NY連銀製造業景気指数で再び引き締め観測浮上。
  • 欧州通貨の買戻し一巡で、ドル全面安から戻り基調に。

しかし、昨日はドルが高値から一転反落。その背景は、

  • 予想を下回った7月の米住宅関連指数。
  • トランプ大統領が大企業のCEOなどで構成される製造業評議会と戦略・政策フォーラム解散を発表。バージニア州の白人至上主義者らの集会で起きた衝突事件を巡る白人至上主義擁護とも取れるトランプ発言に抗議し、多くのメンバーが辞任したことが原因。トランプ政権の政権運営能力に対する懐疑的な見方が再燃。
  • FOMC議事録で、メンバーが低インフレ懸念を明らかにし、12月利上げ観測が後退。

市場は意外に素直に材料に反応している訳で、今現在の相場が“ドル売りフェーズ(局面)なのか、買戻しフェーズなのか”を見極めて対処する必要があるだろう。

最近の白人至上主義者集会での殺傷事件を巡り、トランプ大統領が急きょ“白人至上主義反対”を明言するなど、トランプ政権は最近世論重視型に転換しつつある。しかしロシアゲート疑惑に加えて、経済政策遂行への懐疑的な見方、更には入国禁止令以来の同大統領の人種差別主義に対する内外の根強い反発など、早くも同政権のレームダック化(死に体)も取り沙汰される。政治家エスターブリッシュメントから政権を奪い取った同大統領だが、政権運営能力に対する疑問が出るなど、結局は米国政治も「餅(政治)は餅屋(政治家)に」ということなのか?

今しばらくはドル売り材料でドーンと下がり、材料が消化されると、次のドル売り材料が表面化するまでショートカバーのドル買い戻しが活発化する、というやりにくい相場展開が続きそうだ。

ただ米国経済における双子の赤字という根底のドル売り材料(ストック部分)に加え、地政学的懸念、FRBの金融引き締めスローダウン観測、ロシアゲート疑惑などその時々のドル売り材料(フロー部分)が絶えず表面化する現状を勘案すると、ドルの上昇もショートカバーの域を出ないと考える。

豪ドル相場見通し――戻り売りスタンスで上値の重い展開

向こう一週間の予想レンジ:

  • 豪ドル/ドル:0.7700-0.7900
  • 豪ドル/円:85.00-88.00

1) 概況

豪ドルは7月初のRBA理事会声明以来、RBA当局者の豪ドル高けん制が相次いでいる。今回の高値80セント台半ば、89円台半ばから、一時78セント台前半、85円台半ばまで反落した。しかし、本日発表された7月雇用統計で就業者数が+27.9千人と、5カ月連続で増加。しかも予想を上回り、再び79セント台半ば、87円台半ばに反発している。
今週はリビア(減産対象外)の生産回復でOPEC全体としては増産基調にあること、米国のシェールオイル/ガス増産見通しが重石となり、原油価格が再び47ドル台を割ったこと、豪州のジョイス副首相にNZとの二重国籍の可能性があることが明るみになったことで、豪ドルの地合を悪くした。
今回の就業者数だが、full-time-jobは▲23千人で、増加の大半がpart-time-jobの増加(+48.2千人)によるところであり、豪ドルの反発も一時的なものだろう。ドルの軟調は豪ドル押し上げ要因だが、ドル軟調の原因がリスク回避に起因するケースが多く、その場合にはリスク通貨豪ドルへの圧力も増加するため、ドルの軟調が豪ドルを大きく押し上げる地合にはなりにくい。

2) 発表された注目の経済指標

  • 7月雇用統計
    就業者数+27.9千人(予想+20.0人、前回+14.0千人)
    失業率 5.6%(予想5.6%、前回5.7%)
    full-time-job▲23.0千人(前回+62.0千人)
    part-time-job+48.2千人(前回▲48.0千人)
    前年比+1.9%(予想+1.9%、前回+1.9%)(8/16)
  • 労働参加率65.1%(前回65.0%)(8/17)
  • Q2 賃金コスト指数
    前期比+0.5%(予想+0.5%、前回修正値+0.5%→+0.6%)
    前年比+1.9%(予想+1.9%、前回+1.9%)(8/16)

3) RBAの金融政策

今月のRBA理事会声明での豪ドル高牽制後も、ロウ総裁、デベル副総裁、ケント総裁補の三役そろい踏みで豪ドル高牽制を繰り返しており、さすがに対ドル80セント、対円90円の節目が遠のいた感じだ。昨日発表されたQ2の賃金コスト指数は依然落ち着いているが、後述のように今後の上昇が予想される。ただ、その上昇はあくまで緩慢なものと予想され、低い賃金上昇率が利上げの大きな障害になっているRBAの懸念を払しょくするものではなく、利上げはあっても来年後半との市場の見方は変わっていない。引き続き金利先物市場は来年6月の利上げを50%織り込み、11月で100%織り込んだ水準となっている。

4) 商品相場

商品相場(CRB INDEX)は先週木曜日の180.95から昨日は177.38に下落した。原油価格(WTI)はリビアの生産回復からOPEC全体の生産量が増加したことや、米国のシェールオイル/ガス増産見通し、更に米国のガソリン在庫の積み上がりが重石となって46ドル台に続落した。金価格は地政学的懸念後退後も1,28ドル台に高止まり。鉄鉱石価格は72ドル台に反落し、一方で石炭価格(燃料炭、New Castle積み出し価格)は97ドル台に続伸。

5) テクニカル分析

(長期トレンド)
豪ドル/ドルは2013年5月にパリティー(1AUD=1USD)を割って以来下降トレンドとなり、2015-2016年の70セント割れで底入れ。現在なだらかな上昇トレンドを築きつつある。
豪ドル/円は2014年11月に102円台を付けた後下落トレンドとなり、昨年6月に72円台を付けて底入れしたが、今回の高値89円台で頭打ち。

(足元)
豪ドル/ドル、豪ドル/円、ともに一目均衡表の雲に向けて下落し、豪ドル/円は雲の上部に到達。両ペア共にボリンジャーバンドの下限に達した後、反発地合。ただ豪ドル/ドルの昨日の「長大陽線」は「三手打ち」の可能性があり、その場合は「戻り売りの急所」となるので要注意。7月末以来の下げトレンドから底打ちし、上昇となるか?あるいは再びダウントレンドか?目先短期移動平均線の通る79セント台前半、87円台前半を上にブレークできるか注視したい。73セント、81円から上昇してきた相場であるから、本格的調整であれば、まだ下げ余地があるだろう。RSI は豪ドル/ドルは 56.66 %、豪ドル/円は51.61%で再びoverboughtに。

【豪ドル/ドル チャート】

【豪ドル/円 チャート】

今週の豪ドル関連情報

1)副首相の二重国籍問題

今月14日バーナビー・ジョイス副首相は、自分がニュージーランドとの二重国籍である可能性があることを公表した。豪州では複数国籍者が連邦議員になることを認めておらず、ジョイス副首相が議員辞職すれば、ターンブル首相の保守連合政権は1議席差で持ちこたえてきた下院の過半数を維持できなくなり、再び政局が混乱する可能性がある。
豪州の政界では、7月に野党・緑の党のスコット・ラドラム副党首がニュージーランドとの二重国籍だったことを明かして議員辞職。続いて同じく緑の党のラリッサ・ウオーターズ上院議員がカナダとの二重国籍を理由に辞職。またターンブル政権からもマット・カナバン資源・北部担当相がイタリア国籍を取得していたことが判明したとして辞任を表明するなど、二重国籍辞任が相次いだ。
ジョイス氏本人は豪州の地方都市タムワース生まれの豪州国籍であり、他国の国籍を有しているとは全く考えていなかったが、ニュージーランド高等弁務局が内務省からの事前通達として、同氏がニュージーランド国籍を有するとみなされる可能性があると伝達した。同氏の父親はニュージーランド生まれで、1947年にオーストラリアに移住している。
国民党党首の同氏は議員資格を有するかどうかの判断を連邦最高裁に委ねるとしているが、現時点では副首相も議員も辞職するつもりはないと述べている。

2)豪州Q2賃金コスト指数

昨日発表されたQ2の賃金コスト指数は今後のインフレ動向を占う上でも注目された。結果は前期比で+0.5%(予想+0.5%、前回は+0.5%から+0.6%に上方修正)、前年比+1.9%(予想+1.9%、前回+1.9%)とほぼ事前予想通りであったが、7月から始まった最低賃金引き上げ制度と労働市場の改善から、今後賃金の上昇を予想するエコノミストが増えている。
政府機関の上昇率が+0.6%(前年比+2.4%)と民間の+0.5%(前年比+1.8%)を上回る状況が続いているが、民間の賃金上昇率はインフレ率1.9%を下回る結果となっている。
業種別では健康関連が+2.6%、教育関連が+2.4%と最も高く、最低は鉱業関係の+1.1%。
今後の賃金動向については資源ブームの終焉による最悪期は終わったとの見方が優勢になりつつある。
第一の理由は、Fair Work Commission(公正労働委員会)が7月1日から最低賃金上昇率を従来の2.4%から3.3%に引き上げたことがあり、この引き上げ率は2010年以降で最大である。
第二には、今年になってから豪州の労働市場に改善が見られ、特に過去4カ月の労働市場の改善から、今後失業率(現在5.6%)の低下が予想されることである。
インフレ上昇率の三分の二は賃金上昇率で決まると言われ、豪州経済の大きな問題である低い賃金上昇率が改善されれば、インフレ率がRBAターゲットである2-3%に上昇し、RBAの利上げの障害の一つが取り除かれることになる。ただ賃金はあくまでも徐々に上昇するとの見方が一般的だ。