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ユーロ版【テーパー・タントラム】相場スタートか?

更新日:2017年7月21日

7月20日に欧州中銀(ECB)金融政策理事会が開催されました。7月の会合では、3ヶ月に一度のマクロ経済予想であるスタッフ予想の発表はなく、通常では夏休みに入る前の挨拶程度の理事会となるはずでした。しかし、今回は理事会の1週間前にWSJ紙が載せた観測記事のおかげで、かなり関心度の高い理事会となりました。

今週のコラムでは、ECB理事会とドラギ総裁発言内容を紹介し、最近よく耳にする「テーパリング・タントラム」についても書いてみようと思います。

WSJ紙の観測記事

7月13日、ロイターでこのような報道がありました。

[フランクフルト 13日 ロイター] - 米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、欧州中央銀行(ECB)が来年から資産買い入れを段階的に縮小する方針を9月7日の理事会で示唆する公算が大きいと報じた。
ドラギ総裁は9月理事会の2週間前に、米連邦準備理事会(FRB)が開催する経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で講演を予定している。

9月7日に開催されるECB理事会で、資産買い入れプログラム(QE)を段階的に縮小する、つまりテーパリングの発表があるという観測記事ですが、その根拠として8月24~26日にアメリカのジャクソンホールで開催される経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)にドラギ総裁が出席することを挙げています。

ジャクソンホール経済シンポジウムとドラギ総裁との関係

アメリカには12の連邦準備銀行があり、そのひとつであるカンザスシティー連銀が毎年8月末にワイオミング州ジャクソンホールで開催するのが、通称「ジャクソンホール会議」です。各国中央銀行総裁や関係者、エコノミストなど多数が参加し、経済全般について語り合う注目度の高いイベントですが、通常は出席者の名前や名簿は、会議初日まで公表されません。しかし、今年はその慣例を破り、WSJ紙がドラギ総裁出席と報道したので、マーケットはざわつきました。

どうして、マーケットがざわついたのか?その答えは3年前、2014年のジャクソンホール会議にヒントがあります。その年の6月に主要国初の「マイナス金利」導入に踏み切り市場を驚かせたECB。しかし、その後もユーロ圏のデフレ懸念は改善されず、最後の切り札としての「量的緩和(QE)の導入」に関心が高まっていました。

当時のマーケットでは、もしECBがQEをスタートするならば、夏休み明けの9月の理事会で発表する公算が高いと考えられていました。しかし、ドラギ総裁はジャクソンホール会議に参加し、その時の講演でQE実施の可能性をひと足先に示唆したのです。


その後のECBの政策導入過程は以下の通りとなっています。

つまり、今回マーケットがざわついている理由は、2014年のジャクソンホール会議で「QE開始宣言」をしたのであれば、今年のジャクソンホールでは、「QE縮小(テーパリング)宣言」をするのではないか?と考えたからに他なりません。

欧州中銀(ECB)からの発表

7月20日、日本時間20時45分にECBから金融政策に関する発表がありました。事前予想通り、政策金利は全て据え置き。同時に発表された声明文内容は、予想よりややハト派だったこともあり、ユーロは約20ポイントの下落となりました。

念のために声明文上で「ハト派」的内容と受け取られた箇所を赤字にしてみました。

Regarding non-standard monetary policy measures, the Governing Council confirms that the net asset purchases, at the current monthly pace of €60 billion, are intended to run until the end of December 2017, or beyond, if necessary, and in any case until the Governing Council sees a sustained adjustment in the path of inflation consistent with its inflation aim. The net purchases are made alongside reinvestments of the principal payments from maturing securities purchased under the asset purchase programme. If the outlook becomes less favourable, or if financial conditions become inconsistent with further progress towards a sustained adjustment in the path of inflation, the Governing Council stands ready to increase the programme in terms of size and/or duration.

赤字部分を簡単に説明しますと、

  • 「量的緩和策(QE)月額:600億ユーロは予定通り、2017年12月末まで継続する予定であり、状況によっては延長することもある」
  • 「経済見通しや金融状況などがより不透明となった場合、QEの増額や期間延長などに動く用意もできている」

という内容になり、マーケットが事前に予想していた「QE策の縮小(テーパリング)」について全く言及はありませんでした。

ドラギ総裁記者会見内容

記者会見会場に約5分遅れて登場したドラギ総裁。着席し声明文を読み始めてからというもの、特に目新しい材料が無いにもかかわらず、ユーロは大きく上昇。そして、その後質疑応答が始まってからも、発言の内容にはおかまいなしに、ユーロはグイグイと上げていきました。

主な発言内容

  • 基調的なインフレ圧力は、まだ弱い
  • ただし、ユーロ圏の景気は、ここから一層の上振れに向け勢いが増してきた
  • 今後数ヶ月にわたり、インフレ率は現状の水準での推移となるだろう
  • 成長見通しに対するリスクは、おおむね均衡している
  • 金融市場を取り巻く環境が引き締められることを我々は望まない
  • テーパリングのシナリオについては、議論されていない
  • 金融政策の変更を開始する具体的な時期を設定しない点について全会一致で合意
  • 協議そのものは、今年の秋から始めることになるだろう
  • フォワードガイダンス内容を変更しないことも全会一致で合意
  • 長期金利のレベルはたしかに上昇したが、歴史的水準と比較するとまだ低い
  • ECBは日銀型の政策導入(イールドカーブコントロール:YCC)は議論しなかった

ECBメンバーによる最近の発言

ドラギ総裁発言と比較する意味でも、先週と今週にわたり、ECB理事達が行った発言を書き残しておくことにします。オランダのノット中銀総裁以外、特にテーパリングを急いでいるようには感じられません。

ユーロ版【テーパー・タントラム】か?

木曜日のECB理事会後のドラギ総裁記者会見。私も最初から最後まで聞いておりましたが、ユーロの上昇スピードと総裁の発言内容にちぐはぐな印象を受け、マーケットは発言内容がどうであろうが、何がなんでもユーロを上げよう!という一心で動いている感じがしました。

そこで頭に浮かんできたのが、2013年5月から始まった「テーパー・タントラム」という一連の出来事です。この言葉に馴染みがない読者の方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明しますと、

  • テーパー(テーパリング)とは、量的緩和策(QE)の縮小
  • タントラムとは、「癇癪」という意味

つまり、「テーパー・タントラム」とは、【テーパリング(Tapering)】と【癇癪(Tantrum)】を組み合わせた造語であり、中央銀行のテーパリング観測を巡り、中銀関係者やジャーナリストなどの発言にマーケットが癇癪を起こしたように、あちこちに振らされる相場を意味します。

ここではドル/円週足チャートを使い実際の例を説明しますが、2013年5月にFRB(米連邦準備制度理事会)がQE縮小(テーパリング)を開始するのではないか?という噂がWSJ紙に出て、実際の開始に至るまでの期間(チャート上の黄緑枠内)、マーケットがかなり乱暴な動きをしているのがわかります。

もし、現在の相場が既にユーロ版:テーパー・タントラムに突入しているのであれば、しばらくはボラティリティーの高い相場展開になることは間違いありません。

それ以外の通貨における【テーパー・タントラム】

主要国の中で最初にテーパリング/利上げに踏み切ったのが、アメリカでした。そして、かなり遅れましたが、7年ぶりにカナダ中央銀行が今月利上げを実施しました。カナダドルも、実際の利上げの1ヶ月前から、ぐんぐん強くなっています。

主要国の金融政策スタンス

それでは、まず主要国の金融政策に対するスタンスを比較してみようと思います。

私は豪ドルやNZドル、カナダドルは普段取引していないので、それらの中央銀行の動向も、ヨーロッパや英国のように密着してチェックしていませんが、カナダは先日利上げに踏み切りましたし、オーストラリアとニュージーランドも利上げの準備に入ったと理解しています。

次は、私が住む英国ですが、テーパリングの議論を飛び越え、利上げの必要性が叫ばれています。ここでは詳しく書きませんが、今後のインフレ率の動向次第ですが、今後数ヶ月踏ん張れれば、利上げは来年に持ち越しになるようなイメージで、考えています。

ヨーロッパ(ユーロ圏)は、英国とは全く逆で、金利操作よりQEの縮小(テーパリング)議論が先に出てきました。現時点では、テーパリングの具体的な時期はいつになるかわかりませんが、2013年のアメリカと同じく、テーパリングを最初に行い、その後金融政策の正常化という道を歩むことになるのでしょう。

最後に残ったのは、日本です。ECBと同じ7月20日に開催された日銀金融政策決定会合では、物価上昇率2%達成時期を、従来の「2018年度ごろ」から「19年度ごろ」に先送りし、長短金利操作付き量的・質的金融緩和策の維持を確認しました。

こうして見ると、ここで例に挙げた国に限っての話ですが、日本以外全ての国の通貨は、上昇して当然と言える環境にあるようです。そこで、次は日本を除く5ヶ国の通貨の動きにスポットライトを当ててみようと思います。

緩和終了/テーパリング観測=通貨高となっているか?

ここでは比較しやすいように、英国中銀が独自の計算式で毎日算出している主要国の為替実効レートを使ってみました。

このチャートは2015年からのものですので、アメリカは既にテーパリングが終了しています。それ以外の国では、今年7月に7年ぶりに利上げに踏み切ったカナダ(黄色の線)ですが、その2ヶ月前くらいからカナダドル高に転じているのがわかります。

利上げ準備段階であるオーストラリア(ピンク線)とニュージーランド(黒い線)も、スピードやタイミングの差こそあれ、きちんと上昇しています。

それでは肝心のユーロ圏(緑色の線)は、どうなっているでしょう?これも現在進行形で上昇しているのが確認できます。

最後に英国ですが、アメリカの次の利上げ候補国と言われていたものの、Brexit(英国のEU離脱)による先行き不透明感が嫌気されてか、全く元気がありません。

5つの通貨を比較した結論として、Brexitという問題を抱えている英国を除き、カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・ユーロ圏すべての国の通貨は、利上げ/テーパリング観測を追い風に、通貨高が進行していることが確認できました。

ここからのマーケット

これはECBが毎日発表しているユーロ実効レートのチャートです。今年に入ってから一気に上昇していますが、最近はピンクのラインが通る過去のサポート/レジスタンス:97.90/98.30で頭が押さえられているのが確認できます。

ユーロは上昇しているのに、実効レートは頭打ち?なんだかおかしなことになっています。そこで、比較する意味で他通貨の実効レートも調べてみました。

ユーロとドルの実効レート比較

最初は、世界で最も取引量が多いユーロ/ドルです。比較が簡単にできるように、英中銀が算出している実効レートを使っています。ピンクの枠で囲んだ部分(今春以降)で、ユーロ実効レートは上昇/ドル実効レートは下落が特に進んでいます。つまり、ユーロ高と並行して、ドル安も同時進行しているため、ユーロ高/ドル安のスピード感が出ているのですね。

ユーロとポンドの実効レート比較

次に、私の大好きなユーロ/ポンドを調べてみましょう。ピンクの枠内の動きを見ると、ユーロは相変わらず大きく上昇していますが、ポンドは下落後横ばい/やや上昇となっています。つまり、前述のユーロ/ドルのような両股開きの展開にはなっておらず、速度の差こそあれ、ユーロもポンドも両方上昇している場面があります。

私は普段、ユーロ/ポンドでユーロ買いを仕掛けていますが、効率を考えると断然、対ドルでユーロを買う方が良さそうですね。

このように、同じ「ユーロ買い」というストラテジを組んでも、相手通貨によっては収益の伸びが変わってきます。もちろん、自分の得意通貨を徹底的に仕込むことは私も大賛成ですが、ポジションの一部を、普段とは違う通貨で持ってみるちょっとした冒険も、面白いかもしれません。