金曜 松崎美子の英国発!すこしFX☆なが~くFX

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にわかに浮上してきた英中銀、11月利上げ説

更新日:2017年9月15日

9月14日、英中銀金融政策会合(Monetary Policy Committee 以下、MPC)が開催されました。「政策金利据え置き」がコンセンサスとなっており、実際の結果もその通りでした。

しかし、MPCから発表された声明文と議事要旨には、市場予想を裏切る内容が何箇所か見られ、慌てたマーケット参加者は一気にポンドのショートカバーに走りました。

今回のコラムでは、英中銀MPCからの発表内容を解説し、今後のマーケットについて考えてみたいと思います。

英中銀MPC事前予想

今回のMPCに向けた事前予想からお伝えしましょう。

議事要旨の投票配分に注目

政策金利・量的緩和策(QE)の枠組み:4,350億ポンド、共に「据え置き」予想となっており、市場の関心は、政策金利決定に関する9名の理事たちの投票配分に集中していました。

コンセンサスは、「7対2で据え置き」でしたが、赤くハイライトを入れたホールデン英中銀主席エコノミスト氏の動向に関心が集まりました。その理由は、MPCの2日前に発表された8月分・消費者物価指数(CPI)が2.9%(前年同月比)と強い数字になったからです。

2.9%という数字は、今年5月のCPIと同じ数字で、この数字が出た直後の6月21日に講演をしたホールデン氏は、「年後半に緩和の一部を解除か?引き締めを遅らせるリスクが台頭 してきており、Brexit後の追加緩和の一部解除もあり得る。ただし、賃金上昇率が低いのが懸念材料」と発言しました。そして、今週発表された8月CPIが5月と同じであったことを受け、「もしかしたら、ホールデン氏は利上げに票を入れ、6対3で据え置き決定となるかもしれない」という見方が出てきたという訳です。

英中銀からの発表

それでは、9月14日の英中銀MPCからの発表内容をご紹介しましょう。

英中銀からの発表と投票配分

結果は、コンセンサス通りとなり

  • 政策金利 0.25% 7対2で据え置き
  • QE枠:4,350億ポンド 全会一致(9対0)で据え置き

しかし、同時に発表された声明文と議事要旨に驚きの内容が隠されており、ポンドは一気に上昇しました。

英国の利上げ織り込み度合い、急上昇

英中銀MPCからの発表を受け、OIS(Overnight Index Swap 翌日物金利スワップ)では、MPCでの利上げの可能性が一気に強まりました。

  • 11月2日MPC
    0.25%据え置き 57.9%
    0.50%へ利上げ 42.1%
  • 12月14日MPC
    0.25%据え置き 45.6%
    0.50%へ利上げ 45.4%
    0.75%へ利上げ   8.9%

執筆時点では、11月は無理としても、今年最後のMPCでは約55%の可能性で利上げがあると見られています。

声明文

それでは、早速今回のポンド高要因について調べてみましょう。

10月CPIは3%超えを予想

「The sterling exchange rate has been volatile and the price of oil has increased. Headline and core CPI inflation in August were slightly higher than anticipated. Twelve-month CPI inflation rose to 2.9% and is now expected to rise to above 3% in October.

8月4日のコラム記事で使用したチャートですが、この時発表された四半期インフレ・レポートで、英中銀は「インフレ率(CPI)は10月にピークを付け、3%くらいになるだろう」と予想していました。しかし、9月14日の声明文の中では、「10月CPIは、3%を超えることが予想される」と、見方を変更したのです。

英中銀の責務は、「物価安定の維持」であり、それを達成するためインフレ目標を2%に設定し、±1%のバンドが容認されています。そして、インフレ率が2%±1%以上乖離した場合 (バンドの上下限からはみ出した場合)、英中銀総裁は財務相に交換書簡でインフレ率のオーバーシュートの理由を説明する義務があります。

もし、英中銀の声明文での予想が正しければ、10月CPIが3%を超えた時点で、カーニー総裁はハモンド財務相に書簡を手渡すことになります。

経済/労働市場の緩みの縮小

「Recent developments suggest that remaining spare capacity in the economy is being absorbed a little more rapidly than expected at the time of the August Report, and that inflation remains likely to overshoot the 2% target over the next three years.

8月のインフレ・レポート発表時よりも早い速度で経済/労働市場の緩みが縮小している。そのため、今後3年間にわたり、インフレ率は中銀目標の2%を上回る可能性が高い

ここでも、英国のインフレ率は、中銀のインフレ目標を上回る状態が長期化すると予想しています。

金融引き締めの速度

「All MPC members continue to judge that, if the economy follows a path broadly consistent with the August Inflation Report central projection, then monetary policy could need to be tightened by a somewhat greater extent over the forecast period than current market expectations. A majority of MPC members judge that, if the economy continues to follow a path consistent with the prospect of a continued erosion of slack and a gradual rise in underlying inflationary pressure then, with the further lessening in the trade-off that this would imply, some withdrawal of monetary stimulus is likely to be appropriate over the coming months in order to return inflation sustainably to target. All members agree that any prospective increases in Bank Rate would be expected to be at a gradual pace and to a limited extent. 」

要約しますと、「8月インフレ・レポートでの予想通りに英経済が拡大していくのであれば、現在マーケットで織り込まれている将来の金利水準と比較して、やや早めのペースで、金融政策の引き締めが実施される必要が出てくる。インフレ率を目標圏内に安定させるためには、緩和策の一部解除を近い将来実施することが望ましい」となっています。

「早めのペースでの引き締めの可能性」、「近い将来の緩和の一部解除」この2点がキーポイントとなり、マーケットではポンドのショートカバーが炸裂しました。

議事要旨

次は議事要旨です。

最初の利上げの織り込み時期

2 The first 25 basis point rise in Bank Rate was not fully priced in by financial markets until the second half of 2018. The majority of economists responding to a survey by Reuters had expected Bank Rate to remain at 0.25% until at least the end of 2018.

「最初の0.25%利上げが織り込まれているのは、2018年下半期となっている。ロイター調査では、(さらに遅れて)2018年の年末との予想」

上述の通り、「現在マーケットで織り込まれている最初の利上げ時期である2018年下半期/年末よりやや早めのペースで、金融政策の引き締めが実施される必要が出てくる」ということで、早ければ11月利上げ説が浮上したと考えられます。

最近のポンド下落について

4 The sterling trade-weighted effective exchange rate index had depreciated by around 1% since the Committee’s previous meeting. The Committee discussed various factors that may have contributed to this decline. In part, moves in sterling may have reflected developments overseas. In recent months, the reappraisal of euro-area growth prospects had pushed up the value of the euro against both the dollar and sterling. Sterling may also have been affected by domestic factors, in particular developments regarding the United Kingdom’s ongoing negotiations with the European Union. The Committee noted that market expectations of the UK’s future trading relationship with the EU and the transition to that relationship were likely to continue to exert a significant influence on sterling over the coming quarters.

要約しますと、「最近のポンドの動きは、外的要因として、ユーロ圏の経済拡大とそれにともなうユーロ高(ポンド安)。国内要因としては、Brexit交渉の影響。今後もBrexit交渉の進捗によっては、ポンドの価値に多大な影響を及ぼす可能性あり」

どうして今回は7対2で据え置きとなったのか?

早々と11月利上げ説が浮上してくるほど、タカ派的内容と解釈された今回のMPCですが、政策金利据え置きの投票配分は、依然7対2のままであり、少々不思議な感じがしました。そのあたりについて、議事要旨の31番から36番にかけて説明がされていました。

要点だけを書き出しましたが、32番と36番の部分で指摘されている点の改善時期により、英中銀の最初の利上げ時期がはっきりしてくると思います。

・31番 利上げ票を入れた人たちの考え方
インフレ率が英中銀目標の2%を超える状態が続いており、これ以上オーバーシュートが加速しないためにも、早い時期に緩和策の一部解除に動くことが望ましい。

・32番 据え置き票を入れた人たちの考え方
第2四半期GDPは、8月のインフレ・レポート内容に沿った数字となったが、個人消費やビジネス投資の弱さが非常に気になる。特に、消費者信頼感指数も伸び悩んでいるし、賃金の上昇も芳しくない。

その反面、雇用市場の強さは群を抜いており、このまま堅調な雇用が継続すれば、不動産市場や新車販売台数の回復も期待できる。

ただし、現時点では、ビジネス投資の弱さを相殺できるほど、個人消費が強いことが確認できないため、金融政策の変更時期ではないと判断。

・36番 Brexit交渉の不透明感
ここからのBrexit交渉の行方については、一般世帯だけでなく、ビジネス界、金融界など全般的に不透明感が高い。

2種類の利上げ

2008年のリーマン・ショック以前とその後のマーケットにおいて、「利上げ」の種類は2通りに分かれてきたと私は考えています。それは、伝統的な「利上げサイクル」、もうひとつは、「金利の正常化に向けた動き」です。

金融引き締め(利上げ)サイクルの始まり

通常、中央銀行が政策金利の方向性を変更した場合(今回の場合は利上げ)、変更後は定期的に利上げが実施されるのが一般的です。

アメリカの過去の利上げサイクルを例に挙げますが、2004年からの利上げサイクルでは、同年6月30日に最初の利上げに動き、その後19ヶ月の間に15回、合計3.75%の引き締めを実行しています。そしてここが大事な点ですが、過去に経験した「金融引き締め(利上げ)」時は、利上げサイクルに入る前に既に景気過熱感が出ており、一度利上げに動くと、その後立て続けに利上げが続いていました。

金利の正常化

それでは、次に「金利の正常化」について調べてみましょう。

ここではわかりやすく、マイナス金利を導入しているユーロ圏と日本を例に考えてみます。私がここであらためて言うまでもなく、政策金利がマイナス圏内に落ち込む事は一般的ではなく、デフレ・リスクを回避するための一時避難的措置と考えられます。その場合の「金利の正常化」とは、マイナス金利という一時避難的措置を、ニュートラルな状態に戻す作業であり、金融政策理事会が開催されるたびに毎回連続して利上げを実施することは期待できません。肝心の景気/インフレ過熱感がないからです。

そもそも、「ニュートラルな金利水準」とは、どのようにして決められるのか?それは、各国の経済成長率やインフレ率、失業率などを元に計算した「自分達の身の丈に合った金利水準」とも言えるでしょう。2008年のリーマン・ショック以前のアメリカのニュートラル金利水準は、4~4.5%あたりでしたが、リーマン・ショック後は「ニュートラルな金利水準」そのものが大きく変わり、2.6%くらいまで下がったと言われています。

主要国の中では一番早く2015年12月に金利の正常化に動いたアメリカですが、利上げのペースは2004年当時と比較すると驚くほど穏やかであることは、チャートを見ると一目瞭然ですね。

英国は11月に利上げに動くのか?

個人的には、今の時点で11月に利上げに動くとは、考えていません。しかし、ここで問題となるのは、次回の英中銀による利上げは、「金融引き締めのサイクルの始まりという位置づけの利上げ」であるのか?それとも、「2016年6月国民投票でBrexitという結果になったことを受け、同年8月に0.25%の利下げをした分を戻すだけ」なのか・・・その解釈により、大きく変わってきます。私はあくまでも後者の方を支持しており、もし年内利上げに踏み切るのであれば、それはあくまでも0.25%という異常に低い金利水準を「ニュートラル」に戻しつつ、今後Brexit交渉が頓挫した場合に、緊急利下げに動けるよう、政策金利の糊代を確保するためと考えています。

どうして私が11月の利上げを(現時点では)支持していないのか?わかりやすく図にしました。

天秤にかけると、「据え置き要因」が目に付きます。それに加え、インフレ率のオーバーシュートに関しては、英中銀が予想するように10月に3%を超えたとしても、そこでピークを打ち、その後は穏やかに下がって来るという見方も残っており、かなり判断に悩むところです。

ここからのポンド

中長期のポンド相場を考える場合、「Brexit交渉に関する不透明感」を重視するとベアリッシュ(弱気)に、インフレ率を重視した場合はブリッシュ(強気)になるでしょう。

ただし、短期の相場観としては、シカゴIMM通貨先物ポジションで、かなり大規模なポンド・ショート(売り持ち)が残っていることを考慮すると、ポンドの下値は限定的だと思います。

自分が一番気になっているのが、ユーロ/ポンドです。これは週足チャートですが、一旦0.88Lowを目指しユーロ安/ポンド高になると予想しています。

万が一、0.88Lowをあっさり下抜けするようであれば、0.83台が視野に入ってきます。