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ジャクソンホール経済シンポジウムを巡る憶測

更新日:2017年8月18日

8月16日欧州市場が開いた直後、ユーロがガクンと下げました。「あれれ?」と思いながらニュースを探すと、ロイターに観測記事が載っており、それが「犯人」のようです。

今回のコラムでは、ロイターの観測記事でも触れているジャクソンホール経済シンポジウムに向けたマーケットの思惑について書いてみたいと思います。

ジャクソンホール経済シンポジウムとは?

7月21日のコラム記事でもジャクソンホール経済シンポジウムについて、簡単に説明をしました。ここでは、もう少し詳しく掘り下げてみたいと思います。

各年の秋以降の金融政策を占ううえで、注目度ナンバーワンのイベントがジャクソンホール経済シンポジウムです。これが終わると、本格的な秋相場のスタートですが、季節的なサイクルでは、特に株価は夏に天井をつけ、秋に向かい大きな調整(下げ)が入ることが多いため、通貨の変動幅も大きくなりがちです。

簡単な概要

米カンザスシティー連邦準備銀行が主催し、ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるため、通称「ジャクソンホール会議」と呼ばれており、毎年の総合テーマを決めるのは、カンザスシティー連邦準備銀行です。ここで話し合われる内容は、当日の午後に初めて発表され、会合記録は公開・文書化されますが、TVやネット上でのライブ中継はありません。ここには世界各国の中央銀行総裁・政治家・学者・エコノミスト達が集結しますが、肝心の出席者名簿はシンポジウム開始まで明らかにされません。出席するメンバーもそうそうたるものですが、この会合がここまで重要視される理由は、2008年の金融危機以降、金融政策における大きな変化の前触れとなってきたからに他なりません。

会合における有名なエピソード

  • 2010年のシンポジウムの講演で、当時のバーナンキ議長が量的緩和策第2弾(QE2)実施の可能性について示唆しました。これには更に興味深いエピソードがあり、このシンポジウムに出席していた当時の白川日銀総裁は、米国のQE2実施の可能性を知り、予定を早めて早々と帰国。その翌日に日銀金融政策決定臨時会合を開催し、米国に先駆け固定金利オペ(公開市場操作)を拡充する追加金融緩和策を決定しました。
  • 2014年8月のシンポジウムで講演したドラギECB総裁は、事前に用意された原稿内容だけでなく、ご自分のアドリブも加え、低インフレについて今までにない「懸念」を披露しました。これを知ったマーケットは、「ただ事ではないようだ・・・」と判断し、ECBのQE実施は「もし」から「いつ」へと変更されたのです。

通貨への影響

2014年の場合、ドラギ総裁のこのアドリブ講演を受け、週明けのマーケットでユーロ/ドルは、窓空けして急落。ジャクソンホール会議のわずか2カ月前に主要国で初めてマイナス金利の導入に踏み切ったECBの総裁が、未だに低インフレ懸念を抱いていることを知り、近い将来必ず追加緩和策の発表をするに間違いないと読んだマーケットは、そこからユーロを大きく売り浴びせたのです。

今年のジャクソンホールが注目を浴びている理由

7月21日のコラム記事と重複してしまいますが、7月13日付のWSJ紙の記事が、全ての始まりだったと考えられます。

[フランクフルト 13日 ロイター] - 米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、欧州中央銀行(ECB)が来年から資産買い入れを段階的に縮小する方針を9月7日の理事会で示唆する公算が大きいと報じた。
ドラギ総裁は9月理事会の2週間前に、米連邦準備理事会(FRB)が開催する経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で講演を予定している。

「9月7日に開催されるECB理事会で、資産買い入れプログラム(QE)を段階的に縮小する、つまりテーパリングの発表がある」という観測記事であると同時に、8月24~26日のジャクソンホール会議にドラギ総裁が出席するとも書かれています。

繰り返しで恐縮ですが、上記「通貨への影響」で書いたように、2014年8月ジャクソンホール会議でのドラギ総裁講演後、ユーロ/ドルが400ポイントを超す急落を演じたことを、市場関係者は忘れていません。もし、今回の講演でQE策からの出口戦略について総裁が語ったとしたら、2014年とは全く逆の動き、つまりユーロが大きく買われる可能性が出てくるため、マーケット参加者も必死です

実は、ドラギ総裁はこの記事が出る2週間以上前の6月27日に、ポルトガル・シントラで開催されたECB年次フォーラムで、「緩和による景気刺激策は依然として必要だが、 デフレ圧力はリフレに変わってきた」と語り、にわかにテーパリング(QE策の縮小)観測が沸いてきたところでした。そして、この観測記事が出た翌週7月20日には、ECB金融政策会合が開催され、その記者会見の席で同総裁は、「金融政策変更を開始する具体的な時期は設定しないが、それについての協議そのものは、今年の秋から始めることになるだろう」と、またまた思わせぶりな発言をしたこともあり、6月末から一気にユーロ高が加速しています。

一連の発言や観測記事を受け、ユーロは久々に大きく買われたのです。

今週は一転してユーロ安相場へ

しかし、さすがのユーロ高も、今週に入ってから調整が入っています。そのきっかけとなったのが、この3つの出来事でした。

8月14日 FT紙の記事でユーロ下落

8月14日のFT紙に、こんなタイトルの記事が載っていました。

「Mario Draghi faces easing dilemma as strong euro sparks concern
最近のユーロ高を巡り、域内では懸念が出てきており、緩和解除とのジレンマに悩むドラギ総裁」

ユーロ買いを逡巡してしまう内容となっています。

  • 最近、ユーロは対ドルで2年半ぶりの高値をつけた
  • ユーロの価値は(実効レートのことだと思います)、この3カ月で5%強くなった
  • ユーロが高くなりすぎると、欧州の輸出品に対する世界の関心が薄らぐ危険がある
  • 欧州の輸出が不振になると、域内の経済成長の重石となる
  • 6月のドイツの輸出が大きく落ち込んだ → 最新のドイツ貿易収支を見ると、輸出高が前月(5月)より2.8%減少。今年初めての輸出減となった
  • インフレ率がECBターゲットより下回っている今、どうして出口戦略を急ぐのか?
  • WSJ紙に書かれている9月7日の会合ではなく、10月26日の会合で、ECBは何か発表するのではないか?
  • ECBが今後も国債購入プログラム(PSPP)を継続する場合、購入条件の緩和をしない限り、一部の国の国債が枯渇する懸念がある
  • 9月7日のECB理事会では、3カ月に一度のスタッフ予想(マクロ経済予想)が発表されるが、前回6月と比べると、最近のユーロ高を受け、2018年インフレ率見通しを下方修正する可能性が高い
  • 今年の秋にECBがテーパリングの発表をしたとしても、政策金利のマイナス化に代表される「超緩和政策」は、マーケットが予想しているより長期にわたり継続されるかもしれない

当然ですが、このFT紙の記事を受け、ユーロはジリジリと軟化してきました。

8月16日 ロイターの観測記事で、さらにユーロ下落

8月16日になると、ロイターが載せた記事でマーケットは慌てふためきました。そこには、「8月24日からのジャクソンホール会議で、ドラギ総裁は金融政策の変更について、特別なことは語らない方針の模様」という記事が載っていたからです。

6月末のECB年次フォーラムから約2カ月、「ECBのテーパリングを含む出口戦略の発表」の概要をジャクソンホールで知らされるというマーケットが温めてきた憶測が、呆気なく消え去った瞬間でした。梯子を外されたマーケットでは、ユーロ売りが加速しました。

8月17日 ECB議事要旨でとどめの一発

最後のとどめは、8月17日に発表された7月20日付ECB金融政策理事会の議事要旨でした。

その中でも特にこの部分にマーケットは大きく反応しました。

「At the same time, concerns were expressed about a possible overshooting in the repricing by financial markets, notably the foreign exchange markets, in the future. (中略)

On the one hand, the improving economic environment could be expected to have an impact on forward-looking financial variables. On the other hand, there was a risk that financial conditions could tighten to a degree that was not warranted by the improvement in economic conditions and the outlook for inflation. In this context, the point was made that, looking ahead, the Governing Council needed to gain more policy space and flexibility to adjust policy and the degree of monetary policy accommodation, if and when needed, in either direction.

要約しますと、「最近のユーロ上昇は、ユーロ圏経済を取り巻くファンダメンタルズが、諸外国と比較して、特に改善されていることが挙げられる。しかし、このまま行けば、ユーロの水準は大きくオーバーシュートする懸念が出てきた。(中略) 最近ユーロ圏経済は改善し、将来のインフレ見通しも明るくなってきた。しかし、金融市場は、(これらの改善を考慮したとしても)やや引き締まり気味となるリスクがある。不必要な金融引き締めが生じないよう、ECB理事会は金融政策に柔軟性を持たせ、(引き締めすぎた場合は) 政策手段に幅を持たせる必要が出てくる。柔軟性については、緩和/引き締め両方向への対処の準備が必要。」

議事要旨の内容が事前に漏れていたとは考えたくありませんが、14日のFT紙の記事はこの議事要旨を読んで書かれたものかしら?と疑ってしまいました。

ここで書かれているのは、「ユーロのオーバーシュートに対する懸念」ですので、7月20日時点のユーロ・レベル(1.15~1.16レベル)を心配しているというより、今年に入ってからの上昇と同じスピードで今後もユーロ高が進行した場合、とりかえしのつかないレベルまで行ってしまうことを懸念していると、私は受け止めました。

ここからのマーケット

それでは最後に、ここからのマーケットについて考えてみましょう。

最初は、今年に入ってからのユーロ/ドルの振り返りです。自分でこのチャートを作っていて信じられなかったのが、わずか半年前くらいに、ドイツ政府関係者が「ユーロは安すぎる」と発言していたことでした・・・。

次は、ECBが毎日発表しているユーロ実効レートです。7月21日のコラム記事でも書きましたが、やはり一旦 99.50付近で頭打ちとなっているのがわかります。次のサポートは、オレンジの点線を入れた97.90~98.30レベルとなります。

チャート:ECBホームページ

最後は、ユーロ/ドル4時間足のチャートにベガス・トンネル(144/169EMA)を入れてみました。執筆時のユーロは、トンネルが通る1.1660/1.1687で見事に反転した形になっています。

これは4時間足のチャートですので、短期の予想となってしまいますが、ここからの戻り高値としては、オレンジのチャネル上限:1.1810近辺。下のターゲットとしては、水色のハイライトが入る1.1600/1685辺りを予想しています。

来週木曜日から、ジャクソンホール会議が始まります。ドラギ総裁の講演は8月25日(金)に予定されているようですので、特に重要な発言はないでしょうが、念のため翌週月曜日の窓空けには気をつけたいと思います。ちなみに、8月28日(月)はロンドン祝日となるため、ヨーロッパのマーケットは値が飛びやすいかもしれません。