金曜 松崎美子の英国発!すこしFX☆なが~くFX

美子トーーク!トーク内容を公開します

必読:Brexit交渉期間のタイムライン

更新日:2017年3月24日

今週、英国のメイ首相はEU離脱に向け、EU基本条約(リスボン条約)50条の行使を3月29日に実施すると発表しました。EUから離脱した国の前例がないため、ここからいったい何が起こるのか、誰にもわからない状態です。

今回のコラムでは、とりあえず現在わかっていることをお伝えしたいと思います。

3~4月のタイムライン

まず、4月末までに起こり得る出来事を時系列でざっくりとまとめてみました。

簡単に説明しますと、3月29日 にメイ首相がリスボン条約50条行使の発表をし、その48時間以内に、EUは英国の離脱をどのように取り扱うかに関する「ガイドライン」を発表するようです。

しかし、そのガイドラインはあくまでも概要ですので、更に詳しい「EU側の統一した方針」を協議するため、4月29日に非公式EU首脳会談(サミット)が開催されます。ただし、この4月29日というタイミングは、2度に亘るフランス大統領選の投票日の真ん中に位置するため、フランスをはじめとする一部の国はあまり前向きではありません。

いずれにしても、このサミットでは、英国のEU離脱に関し、EU加盟国が絶対に譲れない点、譲歩可能な点、ここだけは押さえておきたい点などの「本音」が見えてきそうです。

5~6月のタイムライン

4月29日に予定通りEUサミットが開催され、「EU側の統一した方針」がきちんと決まったことが確認された時点で、改めてEU27カ国は欧州委員会バルニエBrexit主席交渉官の正式任命を行います。

その後、「EU側の統一した方針」の肉付けが行われるようですが、これに約4週間かかります。そして、その肉付け作業終了後、内容について、改めてEU27カ国すべての合意が必要とされます。これらすべての作業が終了するのは、早くて5月末。遅れれば6月にずれ込みます。

そして、ここからが大事な点ですが、このすべての作業が終了するまで、英国との離脱交渉は始まらないそうです。つまり、英国とEUが面と向かって正式な離脱交渉をスタートできるのは、早くて5月末から6月上旬という計算になります。

9月タイムライン

今年9月24日にドイツ連邦議会選挙が行われます。果たしてメルケル首相の続投となるのか、前欧州議会議長であったシュルツSPD(社会民主党)首相候補が勝つのか?非常に気になります。

EU加盟国の中には、ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツの新首相が決定してからが、本格的なBrexit交渉の幕開けという認識を持っている国もあるようで、最悪の場合はドイツの新首相決定から一気にBrexit交渉がスピードアップするという予想もあるようです。

6月上旬から正式な交渉がスタートした場合、実質13~16ヶ月の時間しか交渉に充てられません。もし、ドイツ総選挙の結果を待つことにでもなれば、正味9~12ヶ月まで短縮されてしまいます。

12月タイムライン

離脱交渉における英国とEUとの見解の違いの中に、離脱交渉と貿易交渉を並行してできるか?できないか?があります。英国は並行して実施するつもりでしたが、EU側は離脱交渉でおおまかな合意ができない限り、貿易交渉はスタートしないという見解を披露しています。

バルニエ主席交渉官の発言を聞く限り、EU27カ国のほとんどの国が、今年12月末までに英国とEUとの間で離脱条件を固め、来年早々に貿易交渉に取り掛かることに合意しているようです。

2018年3月タイムライン

今年1月に突如辞任して騒がせた英国のロジャーズ前駐EU大使。この方は、英国は離脱に向け段階的な移行プロセスを導入することは必要不可欠であり、企業などが新しい決定内容に対して準備する十分な時間を設けない限り、一夜にして企業を取り巻く環境が激変し、多大なショックを受けると警告しました。この移行期間を必要としているのは企業に限ったことではなく、移民の管理や関税、金融サービス、航空会社など多岐に亘ります。

この「移行プロセス期間」をきちんと設定する期限として、英国政府は2018年3月を目標にしています。

それに対して、EU側は移行期間の設定時期は、すべての交渉が終了する直前で十分としていて、ここでも意見の食い違いが目立ちます。

2018年10月タイムライン

バルニエ主席交渉官は、「英国とEUとの離脱条件合意は、遅くても2018年10月までになされるべき。」と語っています。さきほどのタイムライン表の再掲ですが、欧州議会でのプロセスに6~9ヶ月必要となるため、逆算すると、18年10月あたりが最終期限となります。

2019年3月末

2年間の交渉期間が終了します。このタイミングで、①EU加盟すべての国、②EU、③欧州議会、これらすべてで英国の離脱条件内容に対する批准が終了していないといけません。

英国議会でも同様に、最終条件内容に対し採決が行われます。

万が一、この時点でも交渉が終了していない場合、EU加盟国すべての合意があれば延長は可能ですが、2ヶ月後に欧州議会選挙が控えていて、期間延長に必要な法的措置の実行に異常な時間がかかるようです。そのため、加盟国は延長には全く乗り気ではありません

2019年4月中

英国のEU離脱に向けた作業がすべて終了し、英国は晴れてEUのメンバーでなくなります。

2019年5月(予定)

欧州議会選挙が予定されています。上述のように、この選挙のため、英国の離脱期間の延長に関して加盟各国は乗り気ではありません。

ここからのマーケット

このように前例のないEU離脱という行程を2年間かけて始めようとしている英国。それに対し、英国に続く離脱国が絶対に出ないよう、厳しい条件を押し付けてくることが予想されるEU側。まだ50条行使をしていませんが、「すでに交渉の主導権は、英国ではなくEU側に握られているなぁ・・・」という感想を私は持ちました。

このタイムラインを調べていて一番心残りなのは、離脱がスタートする今年、欧州主要国で選挙が続くため、EUが一丸となってBrexitに取り組めるのは9月のドイツ選挙が終わってからであることです。この交渉があと1年遅れてスタートできれば、状況はだいぶ変わっていたかもしれません。

それでは、最後にポンドについて考えてみたいと思います。

インフレ率上昇について

今週発表された2月分・英国の消費者物価指数(CPIとCPIH)は、予想の2.1%を軽く超え、2.3%となりました。CPIが英中銀のインフレ・ターゲットである2%を超えたのは、2013年9月以来となり、一気に早期利上げ観測が飛び出し、ポンドは大きく上昇しました。

ロンドンの銀行で働いていた時に何度も言われたことは、「インフレ率だけを単独で見ずに、賃金上昇率とセットで見る癖をつけろ!」でした。日本の銀行で働いていた当時、賃金上昇率という経済指標に全く馴染みがなかったこともあり、最初は戸惑いました。しかし、それに慣れていくうちに、どうしてそういう癖をつけなければいけないのか、納得したのです。

英国を含むほとんどの先進国では、GDP構成要因の半分以上を、個人消費を含むサービス業がはじき出しています。そのため、自国の賃金上昇率がインフレ率より高いか、低いかは、今後のGDP動向を占う上で非常に重要です。

これは、英統計局(ONS)のデータを自分で毎月エクセルに載せて作っているチャートのひとつで、青い線が消費者物価指数(CPI)、赤い線が賃金上昇率(除ボーナス)です。

ここのところずっと、【賃金上昇率>インフレ率】の関係が続き、英国の個人消費は好調でした。しかし、2月の数字が出た瞬間、この2つの数字は全く同じ2.3%となりました。来月以降、青い線のインフレ率が赤い線の賃金上昇率を上に抜いてしまうと、個人消費の力が衰え、GDPの伸びに陰りが出てくるかもしれません。

ここからのポンド

まず、ポンドに対する材料は、ポジティブとネガティブに綺麗に分かれます。

ポジティブな材料として、以下の様なものがあります。

  1. インフレ上昇懸念が出てきたことで、英中銀の利上げが予想以上に早まる可能性が指摘されている
  2. 3月の英中銀金融政策会合(MPC)で利上げに票を入れた理事が1人出てきた。今後もっと増える可能性がある
  3. 3月14日付けシカゴ先物市場のIMM通貨先物ポジション残高を見ると、ポンドのショートポジションが史上最大の107,117コントラクトまで膨れ上がっているため、ショート・カバーが出やすい地合いとなっている

それに対し、ネガティブな材料としては、以下の様なものがあります。

  1. 英中銀MPC理事の9名のうち、6月末までに最大3名の異動があるかもしれない
  2. EUから離脱した国の前例がないため、Brexit交渉が始まった場合、どのタイミングで誰がどのような内容の発言をするのか、さっぱりわからない
  3. Brexit関連のヘッドラインに振られやすく、ボラティリティーも高まるリスクがある

私は、政治相場はあまり得意ではないため、自分としてはポンドの長期ポジションを持つつもりはありません。利が乗れば一旦利食う。そして翌日同じ方向にポジションを持ちたければ、改めて作り直す。当然、利幅は狭くなりますが、歴史を塗り替えるBrexitが完全に終了するまでは、「利が乗ればよろしい」を優先したいと思っています。